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インタビュー

キリンジ(3)

INTERVIEW FEATURE 2 堀込泰行(ヴォーカル/ギター)

キリンジについて考えることは大きな歓びである。心ある音楽ファンならば、誰もが同じような想いをきっとその胸に宿しているはず(でしょ?)。それはたとえば〈彼らならではの卓越したソングライティングの妙について〉であったり、もしくは〈唯一無二の言葉のチョイス・センスについて〉だとか……。挙げ列ねる言葉は、それこそ枚挙に暇がないくらい。もちろん彼らの楽曲に魅了された者にとって、キリンジという存在が放つあれやこれやに思索を重ねていくことは、まさに至福の歓びではあるけれど、そうした愛着が行き過ぎるあまり、ときにあらぬ邪推を引き起こしてしまうなんてことも往々にして起こりうるワケで。それは、堀込泰行語るところの、今作のタイトルにまつわるこんな逡巡からも、まさにありありと窺える次第。

仮タイトルは『ORTHODOX』?

 「いい曲を書いて、いい歌詞を書いて、いいパフォーマンスをすれば、それだけで必ず新鮮なものがきっとできるっていう確信があったから、今回のアルバムには、最初『ORTHODOX』(オーソドックス)って仮タイトルを付けてたんです。でも、後々考えて、やっぱりちょっと裏読みされる危険性があるんじゃないかな?って。いまって結構、過激な音を前面に打ち出しているようなものが多いから、それに対して突き放したような言い方にとられるのも嫌だったし……要は、素直に発した言葉に関してまで〈裏〉にとられてしまうのがすごく嫌だったんですよ。それで今回『Fine』っていうタイトルを付けたんです。普通に〈I'm Fine!〉っていう意味で。このアルバムができたことで僕自身すごく気分がいいし、本当に上出来だとも思っているし」。

字ヅラだけ見るとかなり強い口調に思えるかもしれないけれど、ここでの口ぶりは、すこぶる穏やか。で、余裕も十分。これもひとえに――それまで若干セーブしてきた感のあった――彼自身のもつロック的な資質が見事解き放たれた前作『3』での経験を受けてこそのもの。

「そうですね。ああいうことをやることによってファンの人も普通に喜んでくれたし。僕個人の指向性を前面に押し出すことに関して、兄もすごく同意してくれたんで。それで肩の力が抜けたっていうか、リラックスできたところはすごくあるかもしれないです」。

アルバム『3』リリースの前後で計3回に渡っておこなわれた全国ツアー。そして、今年の4月にリリースされた初のリミックス・アルバム『RMX』や、aikoをゲスト・コーラスに迎えたシングル“雨は毛布のように”も、その後のキリンジに多大な影響を及ぼした模様。

「ツアーで全国をまわって、お客さんが素直に楽しんでいる顔を実際に見ることができて。それまでは結構〈ミュージシャンズ・ミュージシャン〉的な見方をされることが多かったから、あれは単純にうれしかったですね。そのあとにリミックスの話が持ち上がったんだけど、それも素直に喜べたというか……毛色の違ういろんなミュージシャンが参加してくれたんですけど、純粋に音楽が好きな人が僕らの曲を好きで聴いてくれてるんだなって。そんなこともあって、それからはかなりイイ気になってました(笑)。本当、うれしい限りの日々を送って(笑)」。

そんな、えも言えぬ高揚感を引きずるがままに、いざ突入した『Fine』のレコーディング。気心知れたツアー・メンバーとのセッション・レコーディングを採り入れるなど、いままでにないほどリラックスした雰囲気のもとで完成されたこのアルバムからは、演奏そのものを純粋に楽しむ彼らの姿が眩しいぐらいに浮かび上がってくる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月30日 16:00

更新: 2003年03月06日 19:33

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/フミ・ヤマウチ、望月 哲