剛健の巨匠、カイルベルトの至芸がここに

1962年、南ドイツ放送SOを指揮した“シュトゥットガルト・ライヴ”がCD化!
獅子王バックハウスとの貫禄のベートーヴェン:「皇帝」&ブラームス:交響曲第4番
20世紀のドイツ演奏家史上に燦然と名を残す指揮者、ヨーゼフ・カイルベルト。今なお語り草の初来日を4年後に控えた1962年、50代半ばを迎える円熟の名匠がシュトットガルトで行ったライヴ録音がリリースされました!
1968年にバイエルン国立歌劇場で急逝してしまうカイルベルトにとって、1960年代は最晩年であると同時に、世界的に活動を躍進させた時期でもあります。1962年は、ちょうどバンベルク響と共に大規模な南米ツアーを成功させた年。指揮者として脂の乗ったカイルベルトの至芸が込められたライヴです。
ブラームスの4番はおそらく初出音源。1962年ライヴの場を追体験するかのごとき本アルバムは、まさにファン待望の必携盤といえましょう。ドイツ伝統の質実剛健なサウンドが持ち味であるカイルベルトの真髄を味わいつくすにぴったりなプログラムなのも嬉しい限りです。
「皇帝」のピアノ・ソロを務めるのは名匠バックハウス。LPでリリースされた際、誤ってクナーパッツブッシュ&BPOと記載され、そのままレコ芸の特選盤となってしまった逸話もある屈指の名演です。オーケストラは南ドイツ放送交響楽団(現在のシュトゥットガルト放送交響楽団)。カイルベルトの硬派な指揮に導かれ、低音部の響き厚き骨太なサウンドを響かせています。
【ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」】
ベートーヴェン直系の弟子として、当時は演奏・解釈ともに高い評価を得ていた獅子王バックハウス。「皇帝」だけを取り出して見ても、ショルティ、クナ、イッセルシュテットら名だたる巨匠と共に豊穣の盤歴を誇っておりますが、本盤でもそれに連なる熱演が収められています。奇をてらう表現を避けるカイルベルトの趣向が前面に押し出されており、悠然と構える英雄像を思い浮かばせる堂々たる演奏を見せています。作品冒頭、堂々としたオケのユニゾンから燦然と現れるバックハウスの澄みきったピアノ・ソロは必聴の美しさ! フォルテ部分ではカイルベルトの剛直なサウンドが活き、一方のピアノパートでは澄み切ったバックハウスの表現が映えます。このコントラストの美しさはカイルベルト&バックハウス盤ならではの魅力と言えるかもしれません。余裕のあるテンポ感でどっしりと音楽を展開していくカイルベルトに対し、バックハウスも押しも押されぬ力強い演奏で応酬。余談になりますが、カイルベルトが演奏中に急逝した翌年、バックハウスもまたリサイタル中の発作が原因で亡くなりました。生涯を通して演奏に心血を注いだ晩年の二大巨匠の矜持が熱き火花を散らす、まさに貫禄の「皇帝」です。
【ブラームス:交響曲第4番】
1968年、3度目にして最後の来日公演となったN響とのブラームス交響曲第1番が今なお名演として語り継がれているカイルベルト。第4番といえばバンベルク響との名盤も知られておりますが、今回の南ドイツ放送交響楽団もまた名演。ややゆったりめのテンポで、雄大かつ劇的に音楽を盛り上げています。特に強打音では非常に毅然とした表現が際立ち、常にもましてカイルベルトの直截的で剛直な指揮ぶりが伺えます。過剰な速度変化を排して、まさに泰然自若といった様子。鐘というより銅鑼を思わせてしまうような力強いホルン・ソロから始まる第2楽章は、大河の流れの如き悠然とした演奏です。とはいえ、ひとたびフランスのオケを振れば柔和で多彩なフレンチ・サウンドを引き出すことでもしられるカイルベルト。強靭なドイツ・サウンドを存分に響かせる一方で、しなやかなハーモニーを聴かせています。
【曲目】
(1)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5 番 変ホ長調 「皇帝」
(2)ブラームス:交響曲第4 番 ホ短調op.98
【演奏】
(1)ヴィルヘルム・バックハウス(Pf)
ヨーゼフ・カイルベルト(指揮) 南ドイツ放送交響楽団
【録音】
1962年3月15日、シュトゥットガルト(ライヴ・モノラル)