キップ・ハンラハン新作!もうひとつの『Beautiful Scars』が遂に登場

「このアルバムに存在するのは、喘ぎの魔術。聴こえてくるのは、男の中の女、女の中の男のささやき。」
このアルバムのためにキップが書き下ろした歌詞すべてが、これまで彼が書いた作品の中でも最高のものだ。また、歌詞は、英語からスペイン語、スペイン語から英語へと流転し、前作同様、詩としてメタモルフォーゼを遂げる。こうしたベケット文学のようなジェスチャーは、スティーブ・レイシー作品である「NO BABY!」の収録により、今回、キップ・ハンラハンの中でさらなる深化を遂げた。
『A THOUSAND NIGHTS AND A NIGHT(1-Red Night)』(EWAC-1036)における、朗読とチャンティングのミックス、何度か取り上げられてきた「The First and last to make lovet to you」のシアトリカルなジェスチャーは、言葉/唄そのものに結晶し、このアルバムである完成をみたのかもしれない。
ブランドン・ロス、フェルナンド・ソーンダース、さらにファースト・アルバム『Coup de tete』(EWAC-1007)、『Tenderness』(EWAC-1016)以来の参加となったルーシー・ペナデスの声がつないでゆくこのアルバムは、短編のコンピレーション・フィルムを見ているかのようである。
テーマとして一貫して“ANGER”を、音楽を感情そのものを映し出すフォームとしてとらえてきたキップ・ハンラハンの音楽は、物語、エピソードの断片とその集積である。音楽は常に言葉に動かされ、声は音楽に翻弄される。今回も物語は男と女の間にある見えない、聴こえない情動を巡る。
2009年発売の『Beautiful Scars』(EWAC-1060)は、そもそもこのアルバム『AT HOME IN ANGER』として制作された。しかし制作期間は一年間にも及び、延べおよそ一ヶ月にわたるセッションの膨大な数のトラックを抱えたまま、キップは途方にくれた。挙げ句、ヴォーカル・ヴァージョンとインストゥルメンタルの2枚に分けて発売するというアイデアに落ち着き、ひとまずヴォーカル・ヴァージョンである、『Beautiful Scars』が発売された。
しかし、この時点で制作費を使い果たし、さらなる収入の見込みのないまま、インストゥルメンタル・ヴァージョンのプロジェクトは沈黙したかに見えた。その後、しばらくして、キップは、残されたトラックになんとか取り組み、詩を書き、ヴォーカル・トラックをダビングし、さらに新しいトラックを加え、マスタリングするところまでこぎ着けたが、さらにここから1年、マスターはスタジオで眠ることになる。
このアルバムの発売を巡っては、海外のレーベルを巻き込んだ海賊盤騒動にも発展した。ようやく発売されたこの国内盤は、キップにとって未明の幸福の印であり、もうひとつの『Beautiful Scars』である。
【パーソネル】
Dick Kondas(sound)
Dafnis Prieto(ds、voice)
Steve Swallow(b)
Alfredo Triff(vln)
Milton Cardona(congas、perc)
Kip Hanrahan(direction、perc、voice)
DD Jackson(p)
Pedrito Martinez(congas)
Robby Ameen(ds、perc)
Yosvany Terry(perc、sax)
Horacio "El Negro" Hernandez(ds、perc)
John Beasley(p、keys)
Brandon Ross(voice、g)
Bryan Carrott(vibes)
Andy Gonzalez(b)
John Kilgore(sound)
Fernando Saunders(voice、b)
Anthony Cox(b)
Mike Cain(p)
Xiomara Laugart(voice)
Don Byron(cl)
Roberto Poveda(voice、g)
Craig Handy(sax)
Lysandro Arenas(p)
Lucy Penabaz(voice)
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