ブロークン・ソーシャル・シーン インタビュー

photo by Norman Wong
才能溢れる個性派アーティストの集合体、ブロークン・ソーシャル・シーン。カナダのロックシーンを牽引してきた彼らが、ついに4枚目となる新作『フォギブネス・ロック・レコード』をリリースした。7月21日には初日本盤化を含む旧譜4作の再発売も決定している。すでに始まっているワールドツアーは連日ソールドアウト。フジロック2010では、満を持してRed Marqueeのヘッドラインを飾る。主要メンバーのひとりであるアンドリュー・ホワイトマンに、新作にまつわる話を聞いた。(権田アスカ)
――新作『フォギブネス・ロック・レコード』が、カナダのチャートで1位に輝きましたね。
「素敵なことだと思うけど、僕たちにとってはそれほど重要ではないんだ。1位になったからといって、それは必ずしも作品が優れたものであることの証明ではないから(笑)」
――では、前作について少し振り返っていただけますか?セルフタイトルを冠した前作は大成功を収め、バンドは世界中で大規模なツアーを展開しました。
「確かに前作では、本当にいろいろなところをツアーしたし、レコーディングも忙しかった。自分たちがどこにいるのか見失っていたときもあったんだ。多くのアーティストが常に出たり入ったりしているんだから、クレイジーだよね。それがおもしろい半面、混乱することもある。でも、最終的には美しい楽曲をたくさん作り上げることができたと思う」
――前作から5年ぶりとなる新作ですが、バンドにとってこの5年は長かったですか?
「最初の2年間はツアー三昧だったし、2007年は僕も他のメンバーも、それぞれのバンドやプロジェクトのレコーディングをやっていたから、5年のブランクがあったという感覚はないんだ。僕は自分のバンド、アポッスル・オブ・ハッスルで忙しかったし、ブレンダン(・カニング)もケヴィン(・ドリュー)もソロ作を出したしね」
――ブロークン・ソーシャル・シーンの新作を意識しだしたのはいつごろなんでしょう?
「2008年にブロークン・ソーシャル・シーンのライヴを再開してから、徐々に考えるようになった。それで、シカゴを拠点に活動しているジョン・マッケンタイア(トータス/ザ・シー・アンド・ケイク)に会いにいったんだ。ジョンのスタジオで形式張らずに簡単なセッションをしながら、曲を作ったり話をした。結局、1週間半くらいジョンのところにいたんだけど、ジョンとならうまくやれるという確信を持った。ジョンの元で本格的にレコーディングを始めたのは、2009年に入ってからだよ」
――ジョンはブロークン・ソーシャル・シーンのメンバー、兼、共同プロデューサーとしてクレジットされていますね。
「もともとはケヴィンがトータスの大ファンで、ソロ作『スピリット・イフ』のリミックスをジョンに頼んだのがきっかけなんだ。ジョンにはリミックスはやりたくないと断られたらしいんだけど(笑)、いつかレコーディングなら一緒にやりたいと言ってもらえたんで、ブロークン・ソーシャル・シーンのレコーディングに参加してもらえないか打診したんだ。僕たちが望んでいた以上に、ジョンはバンドに深く貢献してくれたよ」
――ツアーメンバーとしてはすでにお馴染みですが、前作には参加していないサム・ゴールドバーグとリサ・ロブシンガーとのレコーディングはどうでしたか?
「新作にはふたりのアイディアもいろいろ反映されているんだ。ライヴ同様、レコーディングにも自然と馴染んでいたよ。僕自身がブロークン・ソーシャル・シーンに加入したときは、ケヴィンとブレンダンのことは知っていたけど、ジャスティン(・ペロフ)や他のメンバーのことはよく知らなかったんだ。でも一緒にプレイしてみたら、自分でも驚くほど演奏がしっくりきたんだよね。初ライヴもうまくいったし、観客のレスポンスもよかった。だから、ブロークン・ソーシャル・シーンにいつ加入したかってことは、重要じゃない。音楽的なつながりがお互いどれだけ強いかってことが大切なんじゃないかな」
――今回はメンバー、追加メンバー、ゲストを合わせると、トータルで31人のミュージシャンが関わっているようですね。
「ブロークン・ソーシャル・シーンは、バンドをとりまく人々なしでは存在し得ないんだよね。たとえばジェイソン・コレットは僕らの非常に親しい友人であり、ブロークン・ソーシャル・シーン・ファミリーの一員だ。クレジットでは追加メンバーになっているけど、レコーディングには欠かせない人物なんだ。追加メンバーは、ツアーにはなかなか参加できないけど、常にいろいろインプットしてくれる、バンドの一部を成すアーティストってことになるかな。クレジットされているのは31人だけど、実際はもっと大勢のミュージシャンたちが関わっているし、メンバーは増えるばかりだよ(笑)」
――メンバーが増えると、誰がなにをやるかを決めるのが、より大変になりますね。
「主要メンバーの役割が大きくぶれることはないけど、スタジオで作業しているうちにアイディアが湧き、曲がどんどん変化していくんだ。いいアイディアには常にオープンだし、僕らにはなんの制限もない。ミックス後でも、やはりなにか違うと思えば録り直したり、なにか加えてみたり。4、5パートのシンプルだった曲が、最終的には45のパートから成る厚みのある曲に変わるなんてことは、ブロークン・ソーシャル・シーンにおいて当たり前なんだ。僕がこの曲にはストリングスが合うんじゃないかと言えば、誰かがすぐに入れたり、ケヴィンがこのホーン・セクションはしっくりこないと感じれば、外してみたり。誰のアイディアも無視せずに、すべて一度やってみる。そうしていくうちに、いくつかヴァージョンができあがるわけだけど、メンバーが衝突することはない。どれがよくて、どれがダメなのかは、自然と分かるから。僕らにしか分かり得ない“これだ!”っていう、フィーリングがあるんだ」
――新作のダイナミズムには圧倒されました。めくるめく展開がスリリングでありながらも、サウンドは繊細かつクリアで、しかも奥行きがある。バンドが今回目指したのは、まさにそういう音作りだったのでしょうか?
「僕たちの頭にあったのは、なにか新しいことをやりたいということだけ。特にプランを練らずに制作に入ったんだ。でも、今回はジョンがいたからね。ジョンは楽曲に大きな空間を作り出してくれた。それに対し、デヴィッド・ニューフェルドと制作した前作は、まるでジャクソン・ポロックの抽象画みたいだった。フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド(音の壁)的と言ってもいいかもしれない。ジョンはそういった要素を新作では少し抑えることを提案してくれたんだ」
――たとえば、新作収録曲の“Texico Bitches”や“Forced to Love”は、耳あたりがよく、とてもシンプルですよね。
「パートをどんどん足して、レイヤーにレイヤーを重ねていくだけではなく、時には引いてみたっていい。いろいろ試した結果、このシンプルな形が一番だとわかったんだ。この曲はそうあるべきだっていうのがね」
――“All To All”のようなエレクトロでダンサブルなチューンも新鮮でした。
「僕らはアートロックやエクスペリメンタル・ミュージックだけでなく、音楽のあらゆる側面が好きだから、ダンス・ミュージックも然りだよ。確かに、ブロークン・ソーシャル・シーンとしてはメインのアプローチではないけど、前作でもドラムマシーンを使ったし、ケヴィンやブレンダンのソロ作にも、エレクトロやトランスっぽい楽曲はある。40曲レコーディングした中で、たまたまこの曲がいい感じに流れにあったからアルバムに入れたわけで、アルバム収録曲中最低1曲はダンスナンバーにしようとか考えて作ったわけではないよ」
――“World Sick”などのスペーシーでビッグなサウンドは、ライヴでの再現が容易ではなさそうですが…。
「まさに挑戦だよね。楽曲のパートの多さやレイヤーを考えると、ライヴでの再現は非常に難しいわけだけど、だからこそやりがいがあるというか。これまでの作品の中で、ライヴでの演奏が一番大変なのは新作だと思うけど、だからこそリハーサルにも力が入るよ」
――もうすぐ、フジロックで来日です。
「今回はケヴィン、ブレンダン、ジャスティン、チャールズ(・スペアリン)、サム、リサ、僕の主要メンバーと、サックスとパーカッションをプレイするデヴィッド・フレンチで日本に行くことになりそうだよ!今からすごく楽しみなんだ」
旧譜4タイトルが日本盤で一挙に再発。しかもスペシャルプライス1,980円!
掲載: 2009年06月23日 13:05
更新: 2011年04月20日 15:11