CDトランスポートのスタートボタンを押してすぐ、とうとう拙宅のステレオも壊れたか?と、しばし呆然。いやあ、すごい不協和音ですね。冒頭の器楽序奏は、これがバッハの意図した音響であったのかと、スコアに忠実な演奏に恐れ入りました。カール・リヒターのアナログLP以来5指に余る「ヨハネ」を聴いてきましたが、BCJのこの新盤は圧巻です。そして、ヴィオローネの低音もはっきりと聴こえ、各楽器や声楽パートもくっきりと描かれて、マイクセッティングも今までとは違うように聴き取れます。ハルモニア・ムンディの音をSACD化しているような印象もあります。ファリサイ派に純化したユダヤ教主流派から異端として迫害され、危機に瀕したナザレ派が、生き残りをかけて世界宗教へと脱皮する産みの苦しみが「ヨハネ福音書」に内在していることを明示するかのような迫真の歌と演奏です。「マタイ」のときの元気の良さとはまた別の、ギリシャ彫刻のようなリアルでかっちりと整った声楽陣はやや緊張気味ですが、それも「ヨハネ」では丁度良かったかもしれません。また、BISの音といえばBCJの教会カンタータ全集に感じられるような、透き通った静寂感こそがその主たるキャラクターだと思っていましたが、適材適所・臨機応変に製作意図を実現しようとしていることもこの録音でよく理解できました。ただし、初心者向けにはどうかな・・・?