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mito

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
公開
2011/07/14   12:00
更新
2011/07/19   17:41
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text : 小野田雄

明らかになる音楽家、ミトの肖像〜本人名義での初のソロ・アルバムを発表

ポップとアヴァンギャルド。この2つの感覚は接近、一体化することも多いが、そうは言っても、かつての日本の音楽シーンにおいては、明確に分けられることが多かった。しかし、昨年リリースされたアルバム『2010』の錯綜を重ねた楽曲群は、ピアノ・トリオとの形容でメジャー・フィールドに登場したクラムボンの音楽性が旧態依然とした二元論を飛び越えてしまったことを明確に告げる作品となった。メンバー個々に関しては、その両方を自在に行き来出来る資質を有していたものの、以前の彼らはポップな磁場としてのクラムボンを意識していたはずだが、その枠組みが取り払われた瞬間の解放感が、恐らくはベーシストであるmitoを別プロジェクトというオルター・イーゴではなく、正面切った本人名義のソロ・アルバム制作へと導いたのだろう。

フリーフォームなジャズ・ユニットであるFOSSA MAGNA、そして自身が歌とギターを軸に全ての楽器を演奏するmicromicrophone、さらに、エレクトロニック・ユニットのdot i/oというプロジェクトで3枚のアルバム『想像力の独立と自己の狂気に対する人権宣言Ⅰ~Ⅲ』を2006年に発表してきた彼。それに加えて、クラムボンとしての側面、そして、プロデュースから作曲、作詞、アレンジやリミックスを手がけた過去の作品集『mito archive 1999-2010』に凝縮されている全方位的なポップ・クリエイターとしての側面をも分け隔て無く溶かし込んだのが、簡単に言ってしまえば、mito名義のソロ・アルバム『DAWNS』である。この作品は、toeの美濃隆章が共同エンジニア、砂原良徳がマスタリングをそれぞれ担当。toeの柏倉隆史、コトリンゴ、agraph、Ametsub、ROVOの益子樹など、彼の音楽性が持つ幅を物語る面々が参加している。また、the HIATUSの細美武士や磯部正文、アニメ・ソングや同人音楽に先鋭性を見出している彼らしく、その筋で高く評価されているmeg rockに作詞を依頼しているばかりか、6曲で彼自身の淡く、線の細いヴォーカルをフィーチャー。作品のアウトラインをこうして書き出してみると、クラムボンの『2010』以上に錯綜した作品を想像するリスナーは多いだろう。

しかし、このアルバムはさにあらず。肩の力を抜いた歌心が耳に飛び込んでくるバンド編成のヴォーカル曲とインストゥルメンタルが1曲ずつ交互に登場し、開かれた前半からぐっと内面を掘り下げていく後半へ。そして、どちらも魅力的である構築的なインストゥルメンタルのスマートさと不安定な歌ものの味わい深い揺れの対比、ジャズ・ロックからエレクトロニック・ミュージック、ポスト・ロック、そしてピアノの弾き語りへと収斂していくインストゥルメンタルの構成など、聴く角度によって、本作の印象は大きく異なってくるはずだ。

真っ新なキャンバスを前に、彼がいま何故このような作品を描こうと思ったのか、その真意は分からない。ただ、ここに収録されている全13曲からにじんでくる彼のコミュニケーション能力の高さというべき、均衡のとれた音楽家としての資質は図らずして表出したものであるように感じられる。そのことを裏付けるのは、彼の奥底からこんこんと沸き上がってくるかのようなエモーショナルなメロディ、その説得力だ。こればかりはアレンジという装飾で誤魔化すことが出来ない音楽家の本音にあたるもの。ベーシストであり、理知的なプロデューサー気質の彼がすぐれたメロディー・メイカーであったという発見は、本作の最大の魅力である。個人的には、ブライアン・イーノが放ったヴォーカル・アルバムの傑作『Another Green World』と初めて出会った時の感動が頭をよぎったのだが、それはともかくとしても、本作がmitoにとってキャリアの新しい夜明けにあたる作品であることは間違いない。

 

●『クラムボン2011 ドコガイイデスカツアー』  9月月中旬まで全国各地全国各地をツアー中
●『JOIN ALIVE2011』7/23(土)北海道 いわみざわ公園
●『FUJI ROCK  FESTIVAL'11』7/30(土)苗場スキー場
●『MONSTER baSH2011』8/20(土)香川 国営讃岐まんのう公園内 芝生広場
●11/3(木・祝)東京・両国国技館
【http://www.clammbon.com/】