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Salvatore Sciarrino

公開
2011/04/25   19:58
更新
2011/05/06   13:41
ソース
intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)
テキスト
text : 斎藤和志(フルート奏者)

『コンポージアム2011〜サルヴァトーレ・シャリーノを迎えて』
──100本のフルート!100本のサクソフォン!


©Mauro Fermariello

こんにちは、フルート奏者の斎藤和志と申します。このたびは毎回〈ツウ〉なファンをうならせるアッパレな企画で知られる東京オペラシティ文化財団が今年もやってくれます面白いコンサートをぜひご紹介したく思います。

『コンポージアム2011〜サルヴァトーレ・シャリーノを迎えて』

現代イタリアの巨匠、シャリーノ氏の大編成の曲を4曲、全曲日本初演でお届けするわけですが、なんと言っても目玉商品はコンサートのトリを飾る《海の音調への練習曲—カウンターテナー、フルート四重奏、サクソフォン四重奏、パーカッション、100本(!)のフルート、100本(!)のサクソフォンによる(2000)》。

なんですかこりゃあ!サックスとフルートだけでも合計208人も必要なトンデモ曲で、到底日本で聴くことなどかなわないと思っていた曲ですが、まさか実現するどころか自分が参加することになろうとは…!

そもそもこのサルバトーレ・シャリーノ氏、ほぼ独学で作曲を勉強された方なのですが、その特徴はというと、特にフルート演奏家の立場から言わせていただければズバリ〈特殊な楽器の奏法〉。20世紀以降、それまでの常識にとらわれないさまざまな奏法が開発されて、音楽の可能性を広げて多くの演奏家を喜ばせ、また苦労させてきたわけなのですが、この人こそまさにそのムーブメントの中心人物。ロベルト・ファブリッチーニ(fl)やサルヴァトーレ・アッカルド(vn)などの超絶名手と密接にコラボレートして開発されたその用法は徹底していまして、今回のこの曲もいわゆる〈フルートやサックスの美しい音色、メロディ〉はほぼゼロ、全く出てきません!この編成を見て《アルルの女のメヌエット》風な美しいフルートとサックスのメロディの荘厳な絡みを期待してくださったお客様、ハイ残念でした!

すべての奏者はちょっとだけ息を吹き込む、というより楽器に吹きかける「フワ…」という音や息を出さずに舌先で楽器を叩くだけの「ボン…」という音、楽器のキーをこれまた息も出さずに「カチャ…コキ…」とか、もうそんなほとんど聴き取れるか聴き取れないか微妙なぐらい、我々の言うところの〈心がキレイな人にだけ聴こえる〉ぐらいのボリュームの音がほとんどです。

普通の作曲家ならここで「ああ、この奏法は大ホールの大編成じゃあ聴こえなくなっちゃうね、使えないか〜こりゃ」となってしまうところを、なんと「ああ、一人で聴こえなきゃじゃ200人も集めれば面白いんじゃない?」と思ったか思わなかったか、あえてボリュームのない音、そこを逆手にとって誰も聴いたことのない音響を試みようという発想なのです。

今回、洗足音楽大学に全面的な協力をいただいて、アンサンブル授業の一環として参加してくれることになりましたが、何せ普段、真面目に美しいクラシック音楽を勉強している学生諸君にとって全く見たことも聞いたこともない新しい奏法しかないこの曲の演奏は困難を極めます。ですので、この練習も実はもう1月早々にはじまっております。そして、ちょっとずつその「ヒュ…」みたいな音をいぶかる学生諸君をなだめてすかして、なんとか譜面通りにいっせいに数十人で音を出してみると…「お、面白い!」実はこの曲、すでにCD化されていて、一部マニアの間では話題の曲ではあったのですが、実際のところ、この音響空間の面白さはCDみたいな枠にはとても収めきれない、まさにホールで体感してみないと決して理解できない種類の音楽ですね。ひとつひとつの細かい音の粒子が、あるときは漂うようにささやくように、またある時はいっせいに、波のように、光の束のように押し寄せてきます。おお、これぞ海の音の調べ!そしてその上に2つのカルテット、そしてカウンターテナーが圧倒的な存在感を持って君臨します。

この膨大なリソースをあえて超限定的に活用する、ある意味これ以上ない音の贅沢、今回聞聴き逃してしまったら果たして次はいつになるか…。

また、他の3曲もどれも日本初演で楽しみなものばかりですが、個人的に、最近作(2009年)のフルート協奏曲《声による夜の書》は非常に楽しみです。ソロはマリオ・カローリ。数年前一度一緒に演奏したことがありますが、これが信じられない超絶テクニシャン!!身長2m超の大男ですがフルートの扱いは繊細にして大胆、普段滅多に同業、特に現代音楽の分野で演奏するプレイヤーをいいナと思わない自分ですが、彼はちょっと別格です。おそらく世界一フルートの扱いの上手い男です。オケは2005年シャリーノ氏初来日時に素晴らしい演奏を聴かせてくれた東京フィル(というか自分の会社ですね宣伝失礼、ええ、自分ももちろん参加してました素晴らしい体験でした)、高関健氏の指揮で万全な体制。これは歴史的な1日になりそうです。ぜひ皆様、会場で同じ音空間を共有しましょう!

『東京オペラシティの同時代音楽企画〈コンポージアム2011〉サルヴァトーレ・シャリーノの音楽』

公演延期のお知らせ
5/25→2012年1/17(火)19:00開演
5/29→2012年1/20(金)18:00開演
  
詳細は、東京オペラシティHPにて http://www.operacity.jp

5/25(水)19:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール
指揮:高関 健(1-4)
フルート:マリオ・カローリ(2)カウンターテナー:彌勒忠史(4)
パーカッション:安江佐和子(4)フルート四重奏:斎藤和志/大久保彩子/多久潤一朗/木ノ脇道元(4)サクソフォン四重奏:平野公崇/大石将紀/西本 淳/田中拓也(4)洗足学園音楽大学フルートオーケストラ&サクソフォンオーケストラ(4)東京フィルハーモニー交響楽団(1-3)
1. シャリーノ:オーケストラのための《子守歌》 (1967)
2. シャリーノ:フルートとオーケストラのための《声による夜の書》(2009)
3. シャリーノ:電話の考古学-13楽器のためのコンチェルタンテ (2005)
4. シャリーノ:海の音調への練習曲-カウンターテナー、フルート四重奏、サクソフォン四重奏、パーカッション、100本のフルート、100本のサクソフォンによる(2000)

*****

『東京オペラシティの同時代音楽企画〈コンポージアム2011〉
2011年度武満徹作曲賞 本選演奏会』
5/29(日)15:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール
審査員:サルヴァトーレ・シャリーノ
指揮:工藤俊幸
東京フィルハーモニー交響楽団
[ファイナリスト](エントリー順)
ヤン・エリク・ミカルセン(ノルウェー):Parts II
フローラン・モッチ=エティエンヌ(フランス):Flux et reflux
ヒーラ・キム(韓国):NAMOK
ベルント・リヒャルト・ドイチュ(オーストリア):subliminal

詳細は、東京オペラシティチケットセンター
http://www.operacity.jp/