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菊地雅章──ベネフィットコンサート開催に向けて

公開
2011/03/09   16:47
更新
2011/03/10   20:36
ソース
intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

I love Poo
──菊地雅章ベネフィットコンサート開催に向けて

NYで一番クレイジーなピアニスト(本人談)。異彩を放つ孤高の男、菊地雅章。通称プーさん。その音魂は通念的、世俗的な常識を打ち破り、その都度新しいフレッシュな感覚を時代に叩きつけ、現在もその探究心は衰えることはない。

集団的発想を目論まず、常に己の個という固有の実体実像を暴き出さんばかりのその情熱は、他の追従を許さない、強い信念がある。それ故に、今日に至って次々に問題作をこの世に送り出してきた。

70年代初めに結成したグループ、菊地雅章セクステットは当時珍しかったツインドラムスという新しい発想からスタートした。現在レジェンドとして君臨している峰厚介(ts-当時はアルトサックス)、村上寛(ds)など、血気盛んな若者達を軸に新しい未知なる音楽を創造して行った。また逆に、協調性豊かな日本人特有の気質〈譲り合いの精神〉を打破、強力なアンサンブルを目指したに違いないし、自我を押し通す強い信念を持った者だけが生き残る、サヴァイブする能力をこの日本に植えつけさせる、そんな取り組みをこの当時から実践していたのではないか。

「再確認そして発展」。この衝撃のファーストアルバムのライナーにはこう記されている。

「我々は受難者ではない。音楽することへの悲愴感などすてるべきだ。音楽することに本当の意味での歓びをみいだすべきだ。そして己の為した音楽の自己弁護的な分析、又それを基盤として思考を発展させることによって音楽から逃避するのはやめよう」

次に、80年代。巷にフュージョンブームが流行、殆どのミュージシャンが弱体軟弱化していったこの時期に、目が覚めるような、時代に鉄拳を食らわすような強烈なアルバムが発表される。『ススト』だ。

ブラジルではサウダージ、アメリカはブルース、日本では憂いとでも言おうか。そんなタイトルを冠したこのアルバムにはお涙ちょうだい的な軽々しさは存在しない。もっと人間臭く、深部に入り込んだ慟哭のような深いため息にも似た悲しみが潜んでいる。それは100年以上前に、各国へと奴隷として輸出されたアフリカ原住民の積年の恨み節なのかもしれない。70年代に達成出来なかったツインドラムスの強烈なアンサンブルがここでは具体化され、アフリカ的なコール・アンド・レスポンス。反復するリズムが現在のトランスミュージックを彷彿とさせ、またNY在住ながらも非常に日本的な〈雅〉が随所にみられ、プーさん自身、日本人というパーソナリティーに強い意識をもち、赤裸々に、ポジティブに音楽に現れているところも特筆すべき点である。結果あのマイルス・デイヴィスがこの頭脳を欲しがったことは言うまでもない。

かくして、現在の主な活動としてソロ・ピアノが挙げられる。

今年の1月にプーさんのロフトにお邪魔したが、そのソロのマテリアルは数百テイクに及ぶ膨大なものだった。その全てがロフトでの私家録音でありその一部を聴かせてもらったが、そのクオリティーは、虚構が多いこの音楽業界において、稀に見る聡明でピュアな響きに満ち満ちて、それは一大シンフォニーのようであり、愛に溢れる情愛の音楽でもある。(この音楽を高額で世に出してくれる人募集中である。と、本人談_笑)

プーさん曰く「この15年ぐらいソロに没頭してきたが、何かやっと掴めてきたようだ。それでこの前見たシャガールの絵がまたヒントとなって違ったインスピレーションが湧いてきたので、今度はそのインスピレーションを元に追求してみる」と語っていた。

本当にタフな男である。

2010年7月。肺の疾患で入院し、二ヶ月ものリハビリを受け、現在は自宅のロフトに戻っているが、病苦、生活の困窮の中で不屈の闘争心をもってなおも真摯にピアノに向かっている菊地雅章に感動した。

よって多くの方々に菊地雅章の音楽を再確認して頂くべく、『I love Poo/ 菊地雅章ベネフィットコンサート』への参加を要請したい。

『I love Poo/菊地雅章ベネフィットコンサート』

3/20(日) 会場:新宿 ピットイン
<Part.1  開場14時30分 開演15時 終了17時>
¥4,000(1ドリンク付)
■藤原大輔(ts) 松村拓海(fl,b-fl) 坪口昌恭(org,etc) 菊地雅晃(b,electronics) 吉田達也(ds) ほか
■ 菊地成孔 デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン

<Part.2  開場19時30分 開演20時>
¥4,000(1ドリンク付)
日野皓正(Tp)峰 厚介(Ts)宮田英夫(Ts,Fl)佐藤允彦(P)清水絵理子(P)杉本智和(B)
村上 寛(Ds)本田珠也(Ds)ほか

http://www.pit-inn.com/

*このコンサートの収益は一部経費を差し引いて菊地雅章氏に確実に届けられます。