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新国立劇場バレエ団による『ペンギン・カフェ』

公開
2010/10/18   17:36
更新
2010/10/18   18:09
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text : 池田敏弘(新宿店)

新国立劇場バレエ団による『ペンギン・カフェ』
────サイモン・ジェフスによるあの、ペンギン・カフェ・オーケストラの音楽をバレエで!

新国立劇場バレエ団の2010/2011シーズンの幕を開ける公演として選ばれたのが、20世紀を代表する振付家バランシンによるビゼーの交響曲に合わせた『シンフォニー・イン・C』、上演100周年記念となるフォーキン振付のストラヴィンスキー楽曲による『火の鳥』、そして、新国立劇場舞踊部門の新芸術監督に就任したデヴィッド・ビントレーによる『ペンギン・カフェ』という全く趣きの異なる3作だ。


© Bill Cooper

 

 

今回の看板公演となるのがビントレーの『ペンギン・カフェ』だが、期を同じくして、英国ロイヤル・バレエ団による1989年収録の同作品がDVD作品としてリリースされる事となった。このDVDには往年のプリンシパル・ダンサーが総出演しており、ロイヤル・バレエ団のファンは必見の映像作品だ。ビントレーの最大の人気作のひとつである本作だが、そもそも作品が生まれたきっかけはペンギン・カフェ・オーケストラの音楽とエミリー・ヤングが描くレコード・ジャケットのイラストであった。ビントレー自身が「それ以前にも以降にも私が作ったものとは違っている」と述べる様に、代表作ながらキャリアの中でも特異な位置を占める『ペンギン・カフェ』。本作にはペンギン・カフェ・オーケストラの楽曲が8曲使用されており、それぞれの楽曲ごとに特定の場所、動物のイメージを想起させ、異なる舞踊スタイルで振付がなされている。ペンギン・カフェ・オーケストラは民族音楽、ジャズ、タンゴ、現代音楽、ミニマル・ミュージックなど、世界中の様々な音楽から柔軟に影響を昇華しており、さらにそれをとぼけた質感でサロン・ミュージックに仕立てているが、それはサティの提唱した家具の音楽の様に無視する事も出来るし、能動的に働きかける聴取も出来るというものだ(このリスニングスタイルは後の音響派やエレクトロニカの先駆けとも言えるだろう。トリビュート・アルバムの参加アーティストを見ても明らかだ)

 

登場する動物たちは実は絶滅危惧種で、ビントレーが振付た踊りは伝統的なクラシックバレエの所作はもちろんだが、様々な日常的ユーモラスな動きも存分に取り入れ、環境保護といったテーマを全面に押し出すのでは無く、一見軽快なエンターテインメント作品の体をなしていながらも強いメッセージ性をも内包した作品なのである。

サイモン・ジェフス率いるペンギン・カフェ・オーケストラのその複雑で高い音楽性を円やかに包む、ジャケットワークを含む同楽団のコンセプト(想像上のカフェの名から来ている)や、一見へたうまな質感の演奏、楽曲がこの作品ではビントレーの手によって、非常にパラレルな関係が成り立っている。

つまり、ペンギン・カフェという超現実世界を可視化して見せた訳だが、それも絶滅危惧種がユーモラスに踊る事で不思議な哀しさをじわりと表現したこの演出手腕はビントレーならではのものだろう。

今回はこのビントレーの最大の人気作の1つを新国立劇場バレエ団のダンサーがどの様に解釈し演じ切るかも非常に楽しみである。

『ペンギン・カフェ』以外に2作演目があるが、まず『シンフォニー・イン・C』は〈音楽の視覚化〉と形容されるバランシン作であるが、バランシン作品の中でも非常に難易度が高いとされるものだ。どの様なパフォームを見せてくれるのか、新国立劇場バレエ団の優れたテクニックとセンスが開花するのが非常に楽しみだ。フォーキンによる『火の鳥』では新国立劇場初演にあたって、装置を一新するとの事。こちらも合わせて注目されたい。

デヴィッド・ビントレー芸術監督就任オープニング公演は豪華3本立て!

「ビントレーのペンギン・カフェ」「バランシンのシンフォニー・イン・C」「フォーキンの火の鳥」

10/27(水)19:00
10/28(木)19:00
10/30(土)14:00
10/31(日)14:00
11/2(火)19:00
11/3(水・祝)14:00
(上演時間は2時間40分の予定)
会場:新国立劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/nbj/