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Herbie Hancock『イマジン・プロジェクト』

公開
2010/07/14   15:43
更新
2010/07/14   15:54
ソース
intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)
テキスト
text : タナカシンメイ

世界中のアーティストが集合した一大プロジェクト

ハービー・ハンコック、1940年4月12日生まれ。なんと今年で70歳。この言わずとも知れたジャズ・ジャイアントがその誕生日を記念して、新たな世界規模のプロジェクトに動き出した。

このアルバムを紹介する前に、彼のアーティストとしての軌跡を簡単に振り返ってみると、それは常に最先端のサウンド・コンセプトやイノベーションが隣り合わせだった。1960年、弱冠20歳にしてドナルド・バードに見いだされる否や、1962年には従来のジャズ・イディオムとは一線を画す名作『ウォーターメロン・マン』を世に送り出した。またその翌年にはマイルス・デイビス第2期クインテット(いわゆる黄金クインテット)に参加しつつ、平行して自己のソロにおいて代表作の1つに数えられる『処女航海』や『スピーク・ライク・ア・チャイルド』を発表している。73年には彼自身をリーダーとする問題作『ヘッドハンターズ』をリリース。テクノロジーを取り入れつつ、ジャズの自由な精神性を武器に、皮肉にもジャズというジャンルをいとも簡単に飛び越えてしまった。その後、この進化はスクラッチを大胆に取り入れ、ジャズとヒップホップの境界線を取り払った『フューチャー・ショック』へと結実する。

彼が他のミュージシャンと決定的に違っているのは、ジャズというフォーマットに固執せず、リスナーや世の中が求めている空気感を常に誰よりも早く捕まえ続けてきたことだろう。そして、その時代を捉える目が、今年いよいよ新しい空気を吹き込もうとしている。

〈平和と地球規模の責任〉というアルバムコンセプトを掲げ、そのコンセプトに賛同する世界的なアーティストが結集した挑戦作だ。その名も『イマジン・プロジェクト』。タイトルにもあるように、ジョン・レノンの《イマジン》や、ボブ・ディランの《時代は変る》、サム・クックの《チェンジ・イズ・ゴナ・カム》など、そのテーマ性に相応しい楽曲をラインナップしている。しかもその出来は、ただのカバー集といった安っぽいモノではない。

ジャンルにとらわれない視点から選ばれたアーティストは、シール、コノノNo.1、ジェフ・ベック、マーカス・ミラー、デレク・トラックス、ジョン・レジェンド、チャカ・カーン、ウェイン・ショーター、ティナリウェン、チーフタンズ、トゥマニ・ジャバテなど、凄腕&個性派揃い。それぞれの楽曲にアーティストの個性が彩りを添え、時にワールド・ミュージックテイストを感じさせ、また、ソウル〜ゴスペル、はたまた上質なポップスへと姿を変える。ジャズの精神性と時代の先取感を見事に昇華したサウンドが散りばめられている。

新しい扉を開け続け、垣根を越え続けてきた彼だからこそ創り出すことができる世界的な音楽融和と、平和を願う国籍・人種を越えた心の融和がこのアルバムには詰まっている。