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映画『ソウルガールズ』

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公開
2013/12/27   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text:林 剛


ソウルガールズ_A2
©2012 The Sapphires Film Holdings Ply Ltd.
Screen Australia, Goalpost Pictures Australia Ply Ltd. A.P. Facilities Ply Ltd and Screen NSW.



夢は絶対にあきらめない!
苦難に立ち向かう女たちのソウルフルな歌声が、愛と勇気をくれる感動の実話

黒い肌の姉妹グループが様々な苦難を乗り越えていくストーリーは『スパークル』(76年/2012年)、ソウル・ミュージックに熱を上げるアイルランド系の男がバンドをオーガナイズする姿は『ザ・コミットメンツ』(91年)、ヴェトナム戦争の最中にサイゴンに乗り込んで米軍慰問をする音楽人を描いた点は『グッドモーニング、ヴェトナム』(87年)、深刻な人種差別を テーマにしつつ女性としての誇りを印象づけるあたりは『カラーパープル』(85年)……あくまでも譬えだが、そうした名画のシーンを、 この『ソウルガールズ』 は随所で連想させる。原題は『The Sapphires』。オーストラリアの先住民=アボリジニ(アボリジナル)の三姉妹と従姉妹が紆余曲折の末にサファイアズというガールズ・グループを結成し、ひょんなことから彼女たちの世話人を引き受けることになった白人の男にソウル・ミュージックを叩き込まれて米軍慰問のためにヴェトナムに赴くという、脚本家のトニー・ブリッグスが母親から聞いた実話に基づく映画だ。



ソウルガールズ-1
©2012 The Sapphires Film Holdings Ply Ltd.
Screen Australia, Goalpost Pictures Australia Ply Ltd. A.P. Facilities Ply Ltd and Screen NSW.



アボリジニといえば、ジャミロクワイも使って話題となったディジュリドゥという木製の長い筒状の民族楽器でも知られている。だが、67年までは市民権がなく、米国における黒人にも似た差別を受けていた。映画の序盤、黒い肌の三姉妹(ゲイル、シンシア、ジュリー)が街の音楽コンテストに参加して屈辱を味わう場面からもその事実は否応なく伝わってくる。加えて、当時のオーストラリア政府はアボリジニのコミュニティを崩壊させるべく白い肌の子供を強制的に連れ去り、白人家庭や施設で白人化させるという横暴も働いていた。その犠牲となったのが従姉妹のケイ。だがケイは彼女が仕える白人家庭に押しかけてきた姉妹の情熱に心を打たれ、幼少期を一緒に過ごした“黒い姉妹”のグループに加わって(戻って)、理不尽な目に遭いつつも三姉妹と運命を共にしていく。ケイを半ば強引に勧誘するシーンやサム&デイヴの《Soul Man》《Hold On,I'm Comin'》が流れて意気上がるシーンはどことなく『ブルース・ブラザーズ』(80年)にも通じていて、人種差別やメンバー間の葛藤が泥臭く描かれながらも、彼女たちの表情はポジティヴで輝きに満ちているのが印象的だ。



ソウルガールズ-2
©2012 The Sapphires Film Holdings Ply Ltd.
 Screen Australia, Goalpost Pictures Australia Ply Ltd. A.P. Facilities Ply Ltd and Screen NSW.



監督は、2005年に初演された舞台版の出演者でもあったウェイン・ブレア。同じく舞台版に出演していたのが、三姉妹の長女で強情な姐御肌のゲイルを演じたデボラ・メイルマンで、彼女はアボリジニの隔離をテーマにした『裸足の1500マイル』(2002年)でも好演していた先住民の女性だけに説得力がある。また、サファイアズのリードを務める末娘ジュリーを演じたのが、『オーストラリアン・アイドル』の出身者でフロー・ライダーとの共演曲《Running Back》(2008年)などで知られる人気R&Bシンガーのジェシカ・マーボイ。彼女が数々のソウル・クラシックを本格的に歌えたことが、この映画を一級の音楽劇にしていることは間違いない(グループ結成直後の練習シーンでリードの座をめぐってひと悶着あるあたりは『ドリームガールズ』風か)。そして、トボケた表情でホロ苦くもコミカルな雰囲気を持ちこんでいるのがクリス・オダウド演じるサファイアズのマネージャー/ディレクター、デイヴ・ラヴレースだ。カントリー音楽しか知らなかった姉妹をソウルの世界に引き込む、このひたむきで人情深い白人熱血漢は“サファイアズ第5のメンバー”と言っていいほどの活躍ぶりで、深い印象を残す。

そうした中でサファイアズが歌うスタックスやモータウンを中心としたソウル名曲群が映画の興奮を後押ししていることは言うまでもない。ウィルソン・ピケットでお馴染みの《Land Of A Thousand Dances》を慰問コンサートで熱唱するシーンはハイライトのひとつだろう。また、練習時に歌っていたマーヴィン・ゲイ《I Heard It Through The Grapevine》がヴェトナム上陸後はファンキーなグラディス・ナイト&ザ・ピップス版で歌われる芸の細かさも痛快。さらに想像を働かせると、慰問団募集のオーディション時に歌う《Who's Lovin' You》はミラクルズやジャクソン5 で知られる曲だが、女性4人組ということでアン・ヴォーグが《Hold On》のイントロで披露したア・カペラ版を連想させるし、その次に黒人クラブで歌われるリンダ・リンデルの《What A Man》もアン・ヴォーグとソルトンペパによる共演リメイク版(のヴィデオ)を連想させる。時代設定が68年なのにステイプル・シンガーズの72年曲《I'll Take You There》が歌われるあたりは史実と異なるが、ヴェトナム戦争の激化や公民権運動の高まりが背景にある同曲のテーマ(約束の地に連れて行く)が映画のストーリーとリンクすることを考えると、これはあえて選曲したのではないかとも思う。

後半にはキング牧師の暗殺を慰問先のTVで知る場面も登場。“ヴェトナムで米国社会と接点を持つアボリジニの姉妹たち”という構図は、オーストラリアの女の子たちが異国の地で異国の兵士を慰めているという歪な状況も浮き彫りにする。そんな中でゲイルとデイヴとの異人種間の恋にも踏み込んだこの映画は、シリアスにして甘酸っぱくソウルフルな味わいで観る者に深い感銘を与えてくれるのだ。



映画『ソウルガールズ』


監督:ウェイン・ブレア 
脚本:キース・トンプソン、トニー・ブリッグス
音楽プロデューサー:ブライオン・ジョーンズ 
作曲:チェザリー・スクビセフスキー
出演:クリス・オダウド/デボラ・メイルマン/ジェシカ・マーボイ/シャリ・セベンス/ミランダ・タプセル/他
配給:ポニーキャニオン (2012年 オーストラリア 98分)
1月11日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか 全国ロードショー!
©2012 The Sapphires Film Holdings Ply Ltd. Screen Australia, Goalpost Pictures Australia Ply Ltd. A.P. Facilities Ply Ltd and Screen NSW.
http://soulgirls.jp/