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日本管弦楽の名曲とその源流(プロデュース:一柳慧)東京都交響楽団 定期演奏会

カテゴリ
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公開
2013/12/10   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text : 小沼純一(音楽・文芸批評/早稲田大学教授)


東京都交響楽団_A
秋山和慶/梅田俊明(©三浦興一)



毎年1月は現代作曲家によるオーケストラ作品を聴くことができる。それも在京のオーケストラの定期演奏会において。いや、もちろんどこのオーケストラだって、現代作品を演奏することはある。だが、コンスタントに、ある1つの月に集中して、ということは珍しい。東京都交響楽団による「1月定期」は、AとB、2つがそれぞれべつのプログラムだから、目を惹くし、日程の選択も可能だ。わたしはといえば、オーケストラの定期演奏会のプログラムを順に眺めながら、今度の都響の1月は、とわざと目をべつのところにむけながら、ゆっくり視界にはいるのを待つ、といった楽しみ方をしていた。

2014年1月は「日本管弦楽の名曲とその源流」と題されたシリーズの第17&18回目。プロデュースは作曲家でありつつ、現在神奈川芸術文化財団・芸術監督もつとめる、一柳慧。

1月10日(金)はBシリーズ、秋山和慶指揮でサントリーホール、フリードリヒ・チェルハ(1926-)、原田敬子、池辺晋一郎の作品をプログラム。

原田敬子《コンチェルト ピアノとオーケストラのための》は初演。この作曲家が学生時代から身近に接し、現代作品まで古典曲とおなじスタンスで弾く廻由美子がピアノのソロを受け持つ。池辺晋一郎は、今年2013年9番目のシンフォニーを初演したが、《シンフォニーV「シンプレックス」》は、1990年に都響が委嘱した作品の再演。一作曲家の歩みを追っているなら、10数年という歳月を振りかえり、現在へとつながる里程標としてみることができるし、単体でみるなら、古典にはまだならないけれども、すでに歴史のなかにある一時代の産物として、聴く側がどうとらえるか、を自ら体験することができるだろう。

1月23日(木)はAシリーズ、梅田俊明指揮で東京文化会館、2つの安良岡章夫作品とシェーンベルクがならぶ。1958年生まれの安良岡章夫は、かならずしも多作だったり、派手に作品が持ちあげられたりといったことはないけれども、アンサンブル「アール・レスピラン」をたちあげ、芸大で後進の指導にあたったりと、地道な活動で知られる。この作曲家によるオーケストラ作品が2つ、というのは滅多にない機会だし、しかも《レイディアント・ポイントⅡ〜打楽器とオーケストラのための》では打楽器の安江佐和子が、《ヴィオラとオーケストラのためのポリフォニア》ではヴィオラの川本嘉子がソリストとして登場するのは、彼女たちが名手というだけでなく、同時代の作品を文字どおり自分の身近にあるもの、として演奏できる人たちであるゆえに、楽しみだ。また、すでに古典となったシェーンベルク《5つの管弦楽曲》が1998年の新校訂版で演奏されるというのも、気になるひとにはとても気になること、だろう。

東京都交響楽団による現代作品への取り組みは四半世紀におよぶ。1987年から2002年まで16年、32回にわたって、毎回1作曲家を特集し、「都響日本の作曲家」シリーズをおこなった。2002年から2005年は、3回にわたって「日本音楽の探訪」をおこなう。こちらは戦後の比較的早い時期に作品を発表していた作曲家たち、毎回5人の作品がとりあげられた。なかには現在ではあまり広くは知られない名もある、貴重な機会だった。

そして2006年からは一種のプロデューサー制が導入される。2006年から2011年まで作曲家の故・別宮貞雄がプロデュースを担当。ここから「日本管弦楽の名曲とその源流」が始まる。フランスに留学し、ミヨーやメシアンに師事した別宮貞雄は、現代日本の作曲家をとりあげながらも、20世紀の主として前半の作品を組み合わせることで「その源流」を提示してみせた。いわゆる「前衛」に対しては一貫して批判的な作曲家だったけれども、この人物がひじょうにまめにいろいろなコンサートに足を運んでいたのを、わたしは十代の学生時代から感心してみていたものだ。別宮貞雄は2012年の1月に亡くなったが、その前年だったか、東京文化会館の自らのプロデュースしたコンサートに列席し、通路のうしろの席でいくぶん辛そうにされていた。

2012年からの一柳慧は、別宮貞雄が選んだ作曲家の次の世代へと目をむけ、前衛的・実験的なものもとりこんでゆく。リゲティと北爪道夫、ブーレーズと野平一郎、ベリオと松平頼暁、そして自作とケージ、と。そして1月のコンサートへとつながるのだ。

都響のこうした1月定期があることで、この列島における芸術音楽のありようをとりあえず知ることができる。その存在意義はこれからも形を変えて持続してゆくもの、と期待している。



LIVE INFORMATION


第764回 定期演奏会Bシリーズ《日本管弦楽の名曲とその源流−17》(プロデュース:一柳慧)
日時:2014/1/10(金)18:20開場 19:00開演
プレトーク:18:35~18:50 原田敬子、片山杜秀(音楽評論家)
会場:サントリーホール
出演:秋山和慶(指揮)
曲目: チェルハ:シュピーゲル(鏡)II〜55の弦楽器のための/原田敬子:エコー・モンタージュ──オーケストラのための(2009 年度尾高賞受賞作品)※/池辺晋一郎:シンフォニーV「シンプレックス」 (1990年都響委嘱作品)
※曲目変更に伴い、ピアニスト廻由美子氏の出演はございません。

第765回 定期演奏会Aシリーズ《日本管弦楽の名曲とその源流−18》(プロデュース:一柳慧)
日時:2014/1/23(木)18:20開場 19:00開演
プレトーク:18:35~18:50 安良岡章夫、片山杜秀(音楽評論家)
会場:東京文化会館
出演:梅田俊明(指揮)川本嘉子(va)安江佐和子(打楽器)
曲目: 安良岡章夫:レイディアント・ポイントⅡ〜独奏打楽器とオーケストラのための(2001/2005年版)/安良岡章夫:ヴィオラとオーケストラのためのポリフォニア(1996年)/シェーンベルク:5つの管弦楽曲 op.16(1949年改訂/1998年新校訂版)
http://www.tmso.or.jp/



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