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Autechre『Exai』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/02/26   10:00
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:南波一海

至福の120分。まさにこれこそがオウテカ体験!

ショーン・ブースとロブ・ブラウンがオウテカとしてデビューする以前、レゴフィート名義でリリースした12インチを含む最初期の音源が昨年CD化された。そこには、エレクトロ・ヒップホップやアシッド・ハウスを形成する要素が散見できるものの、やはり、これがヒップホップだとかアシッドだとかは言い切れない、枠組みにはめ込もうとするとどうしたってはみ出してしまう、曖昧な音色や構造を持った音楽が鳴っていた。以来、オウテカはずっと枠からはみ出し続け、やがては未踏の領域に突入していくことになる。

およそ3年振りにリリースされた2枚組の新作『Exai』は、改めてその何にも属さないスタンスを強烈に感じさせる音だった。前作『Oversteps』はメロディアスなアルバムと言っていいと思うし、その直後にリリースされたEP『Move Of Ten』は明らかにダンス志向だったが、本作はそのどちらでもない。とても複雑だが、ビートで埋め尽くされているような印象もなく、『Confield』の頃のようなカオティックなものとも異なる。音色、メロディ、構造にいたるまで、これまで以上に創造的かつストレンジであるのと同時に、あまりに未分類な音楽性でありながらも(だからこそ?)聴けば一発で彼らのものとわかるトラックが並んでいる。まさにオウテカを聴く醍醐味のようなものが詰まっていて、「いま自分は未知のものに対峙している」というこの興奮は、『LP5』や『ep7』を初めて聴いた時にも匹敵する。そうした体験が120分間持続するのだから、恐ろしい。

『Exai』は、オウテカの2人が愛してやまないヒップホップでいうところの「フレッシュ」を提示した作品である。彼らはレゴフィートから一貫してどの音楽からも離れ(ようとし)てきたが、キャリア20年を越えたいまなお、奇怪で、独自で、新しさを感じるものを生み出してしまったことは驚くべきことだし、心から尊敬に値することだと思う。