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映画『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』

公開
2012/10/09   18:45
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:小沼純一

"世紀の恋を生きたウォリス"へのマドンナ自身の共感を映し出す

実在であるばかりか高名で、さらに一般人とは異なった位置にある人物を中心に据え、その知られざる顔、「真実」の一面を照らしだすといった映画が、最近しばしばあるようにみえる。

事実にもとづいてはいるけれど、もちろんそのままでは作品化できないから、どこかにフィクションを織りまぜている。誰かと誰かの会話がそのまま再現されるなんてことはありえないし、事実とフィクションの境は曖昧になる。観ている側もまた心得たもので、フィクションがあるのを充分承知しつつ作品として楽しむ。いや、楽しむ、だけではないひともいる、いるはずだ。何かを感じ、考える。ただの時間つぶしの映画とそれ以上のものと、観るひとによって変わってくる。

『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』は、どうだろう。

イギリス王室をめぐるこのスキャンダルが世界をにぎわせてからすでに70年以上の歳月がながれている。ただの歴史の1エピソードとしてちょっとだけ関心を持つか。王室なるものの威信や社会・政治とのかかわりにおもうところがあるか。それともちょっとした評判の映画として2時間のお楽しみとするか。

1936年12月11日、英国王エドワード8世は一般人女性との結婚を選択し、退位を宣言する。同年1月の即位だったから1年に満たない王位である。相手の女性、ウォリス・シンプソンはアメリカの女性で、離婚を経験、二度目の結婚をしていた。古い価値観からすれば批判すべきものがいくらもある相手だ。「王冠をかけた恋」といわれるゆえんであり、実際に結婚した後は、容易にイギリスに足を踏み入れることさえできなくなってしまう。

映画は、従来二人の関係について語られるとき、あくまでエドワードのこと、王位を捨てたエドワードにこそ焦点があたった、という。イギリスで最高の地位を自ら捨てた、それがカッコいいというかんじか。しかし、映画はその方向をとろうとはしない。そうではなく、エドワードと暮らすことになった女性ウォリスが何を感じ、どう考えていたかを、わずかでも探ろうとする。いや、探るといったらいやらしい。もっとこの人物に寄り添おうとする。かならずしも映画全体にそれが色濃くでているとはいえない。むしろ控えめでさえある。だが、そのあたりは一般的な成功と、映画そのもの、あるいは作中にでてくる人物を介して映画作家が提示しようとしたことを故意に抑えるという側面もないわけではなかったようにみえはする。しかしそれは大したことではない。何よりもこの映画は、歴史好きというよりは、女性のこと、女性の生き方をちゃんと考えるべきものとして、観るものにむけられる作品なのだ。しごとをしている人たち、恋愛や結婚のなかで自らの生き方を考える人たちにむけてこその映画だ。

マドンナ(監督)

監督はマドンナ、言わずと知れた世界的な歌手である。映画監督としては『ワンダーラスト』(2009)につづく二作目。『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』が、いわゆる、事実の一部分をクローズアップした映画と異なっているのは、ウォリスのことを想像し、調べ、自らと重ねたりもするウォリーという女性を設定したことにある。それも、映画としては、時代も場所も異なるけれど、「女性」としてどこかつながるものがある、共通して感じるものがあり、ストーリーや映像上で、あるいはキャラクターの心情として各所で交差することを、観るものが誰しも理解できるようにしている。さらに言うなら、ここにはマドンナ自身のウォリスへの共感、そうまで言わなくても、どこか気になるものが、映しだされているともいるだろう。

カット割りが多く、しかも二つの時代を往還する映像、ミュージック・クリップ的と呼べなくもないかもしれない手法は、ウォリスとウォリー、それぞれのキャラクターに必要以上に感情移入しない/させない撮り方、なのだろうか。はじめは落ち着きがないようにも感じられるが、それがひとつのテンポとして観る側にはいってくれば、しょっちゅうかんじが変わる音楽ともども(およそいろいろなスタイルが使われるのだ、ナイマン風だったりグラス風だったり……)、慌ただしさゆえの小気味好さが感じられもする。途中2カ所だけロックがひびき、ウォリスのダンス・シーンがあるのもコントラストとして、あるいはマドンナ自身による合衆国の(つまりはウォリスの)軽率さ、下品さの強調であり肯定でもあるだろう。

それにしても、この映画のあとに、デイヴィッド(兄)=エドワード8世に対する、アルバート(弟)=ジョージ6世を描いた『英国王のスピーチ』(2010)を観たなら、また、随分と違った感触を抱くにちがいない。ひとつの映画やエピソードが、ほかの作品を介して、べつのあらわれ方をし、観る側も異なったものを得る。そうしたところに、ひとつの映画、ではなく、複数の映画を観ることのおもしろさがある。

映画『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』

監督:マドンナ
脚本:マドンナ、アレック・ケシシアン
音楽:アベル・コジェニオウスキ
出演:アビー・コーニッシュ/アンドレア・ライズブロー/ジェームズ・ダーシー/オスカー・アイザック

配給:クロックワークス(2011年 イギリス 119分)
◎11/3(土)新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー

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