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連載/コラム

演劇界の巨匠による最新作、 『ピーター・ブルックの魔笛』(日本初演) 待望の来日!

カテゴリ : EXTRA-PICK UP 

掲載: 2012年01月05日 13:20

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

text:佐藤友紀


©Pascal Victor / ArtComArt

オペラという、どう考えても一般的には敷居の高い芸術を、子供や初心者向けに紹介するという時、なぜか選ばれることが多いのがモーツァルトの『魔笛』だ。なるほど、鏡に映し出された姿を見て恋に落ちる主人公カップル、タミーノとパミーナの試練こそいわくあり気だが、この2人の運命の恋をよりカジュアル化した鳥刺しパパゲーノとその女房になるパパゲーナの出会いと結婚と出産は常に観客の笑いを誘って大人気だし、悪者のはずの夜の女王にしても、娘パミーナを思う母心と、あの有名な高音を転がしての2曲のアリアは、『魔笛』の音楽を通しての1番、2番を占める人気。ザラストロと神官たちとの何やら哲学的なやりとりを短め目にすれば、子供たちも十分楽しめるオペラと言えるだろう。物語の冒頭から、タミーノを襲う大蛇も登場するし。

という具合に、アプローチ次第ではストーリーテリングのわくわく感がちゃんと浮き上がるこのオペラを、楽しさはもちろん、芸術的な美しさ、深さまで内包しつつ、約90分間の作品に昇華させたのが、『ピーター・ブルックの魔笛』だ。演劇の神様、ピーター・ブルックとオペラと言えば、伝説の舞台『真夏の夜の夢』以来、久々に来日公演を果たした『カルメンの悲劇』、地面に二つの四角い池をしつらえ、あとの床はじゅうたんで覆った『ぺリアスの印象』、そしてエクサン・プロヴァンス音楽祭の野外劇場で披露され、日本でも上演された『ドン・ジョヴァンニ』と、近年のものだけでもバラエティに富んでいるが、フル・オーケストラでの上演は『ドン・ジョヴァンニ』のみ。『ぺリアスの印象』は2台のピアノ伴奏によるものだった。

いや、ブルックにとっては人間の声こそが最高の楽器なのかもしれない。というのは、今回の『ピーター・ブルックの魔笛』は、2台どころか、たった1台のピアノがあるだけなのだ。そして、舞台の数ヶ所に無造作に立てられた太さの違う数十本の竹と地面を、あたたかな照明が包む。劇場に入った途端、こんな光景を目にしたら、誰もここで『魔笛』の物語が展開されるなどとは思いもしないだろう。

ところが、ピアニストが最初の和音を連打した途端、シンプルな舞台空間に豊潤な時間が流れ込む。筆者の場合、これまで何回となく観てきたオペラの『魔笛』の舞台だけでなく、イングマル・ベルイマン監督による映画版、そしてモーリス・ベジャール振付・演出のバレエ舞台版と、さまざまな『魔笛』の記憶が一気にフラッシュ・バックして、これまで味わったことのない音の響きとそれらの記憶のシンクロにドキドキしてしまった。が、そんな余韻にひたっている間もなく、東洋的なコスチュームに身を包んだ若い男性が2人、舞台に現われる。ここはタミーノが大蛇から逃げてくるシーンだぞ、と思っていたら、男性のうちの一人が歌い始め、そこで初めて彼がタミーノだとわかる。ではもう一人の無表情の男性が大蛇なのか? 背景の竹林がジャングルのような思わぬ効果を出していて、最初から物語に引き込まれる。

もっとも、気絶したタミーノを前に、夜の女王の3人の侍女が現われて、「あら、この子、イケメンだわ!」「私のものよ」「いや、私が最初に見つけたのよ」と大騒ぎするくだりは省略されていた。というより、そもそも3人の侍女が本作には登場しないのである。それは、失恋したパパゲーノの自殺を止めたりする役目の3人の童子も同様で、彼らが不在の分、タミーノ、パミーナ、夜の女王、ザラストロ、パパゲーノ、パパゲーナ、そしてモノスタトラというメインのキャストの比重と関係性がより重要になっている。付け加えて言えば、ブルックは人物や音楽を省略するだけでなく、モーツァルトの他の音楽をさり気なく足して、独特の世界観を呈示しているのである。

このように、個人的にはどんなヴァージョンであっても多少退屈してしまうことが多かった後半のザラストロの神殿というか、若いカップルへの説教のシークエンスが省略された代わりに、タミーノとパミーナへの試練の象徴として、それまで背景でしかなかった竹が、その特徴を存分に活かして巧みに利用されていたり。ああ、こういう舞台装置になったのにはちゃんとブルックなりの考えと計算があったんだな、と改めて感心してしまう。ヒントは、「バチン!」という音、とお伝えしておこう。

前出の『ペリアスの印象』の時は、トリプル・キャストで日本人、中国人、韓国人のソプラノ歌手が演じたメリザンドの衣装を、日本の羽衣風にしていたブルック。今回の、シンプルだけど、その分、赤や黒が映える東洋風の衣装もピッタリだ。第一、モーツァルト自身が作曲した魔笛のメロディ、「ドレミファソ」というシンプルの極みではないか。

オペラの舞台を観て、感動すると共に心がほっくらする経験などなかなかないが、本作は間違いなく、その両方があなたを直撃する!

 

 

 

 

『ピーター・ブルックの魔笛』

 

 

 

 

演出:ピーター・ブルック
原曲:W.A.モーツァルト
ピアノ:レミ・アタゼイ
出演:タミーノ:ロジェ・パデュレ/エイドリアン・ストゥルーパー パミーナ:ランカ・トゥルカノバ/ディマ・バワブ 夜の女王:レイラ・ベンハムザ/マリア・ベンディ=メラッド パパゲーナ:マルティーヌ・ミドゥー/ベツァベー・ハース パパゲーノ:ヴィルジル・フラネ/トマ・ドリエ ザラストロ:ヤン・クセラ/ヴァンサン・パヴェジ モノスタトス:ジャン=クリストフ・ボルン/ロマン・パスカル (以上、ダブルキャスト)
俳優:ステファン・スー・モンゴ/アブド・ウオロゲム

●埼玉公演
2012 年3/22(木)23(金)19:30開演
24(土)25 (日)15:00開演  全4回公演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
http://www.saf.or.jp
●北九州公演
2012 年3 /31(土)~4 /1 (日) 各日15:00 開演 全2 回公演
会場:北九州芸術劇場 中劇場
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp

●びわ湖公演
2012 年4 /7(土)~8 (日) 各日15:00 開演 全2 回公演
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
http://www.biwako-hall.or.jp/



追加公演決定!

ご好評につき、このたび追加公演が決定いたしました。

追加公演日時:3月24日(土)開演19:00
発売日:2月19日(日)10時より

 

会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

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