希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深～い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、〈さんピンCAMP〉から〈大LBまつり〉まで飛び回った三羽烏、四街道ネイチャー唯一のフル・アルバム『V.I.C.TOMORROW』。
●今月の名盤：四街道ネイチャー『V.I.C.TOMORROW』
北&澤（MC）、マイクアキラ（MC）、DJ KENT（DJ）の3人から成るユニットが残した唯一のフル・アルバム。グループ活動休止後、北&澤（現・KZA）とDJ KENTはDJ／プロデュース・ユニットのFORCE OF NATUREとして精力的に活動中。また、マイクアキラも2009年2月にソロ・アルバム『THE RAP IDOL』を発表したばかり。（bounce.com編集部）
上野 これは速攻で買いましたね。
ブロンクス これが当時は即買いアイテムだったっていう事実を知って欲しいよね。LB（NATION）好きだけじゃなくて、分かってるヤツらが騒いでた。いまだったら、上ちょ（サイプレス上野）のアルバムを速攻で買いに行くみたいなね。
上野 〈さんピンCAMP〉と次の週の〈大LBまつり〉の両方に出演した唯一の存在ですからね。
ブロンクス 当時、ハーコー路線だったシャカゾンビはLBから離れてったけど、四街道はみんなとうまくやってたよね。
上野 確かに。四街道って、実質、どれくらい曲があるんですかね?
ブロンクス このアルバムでしょ。それから最初のマキシ・シングル“四街道NATURE”。あと“銭の花”とか“HIGH-NEKKEN”、スチャダラやキミドリにフィーチャリングされた曲。SUPER STUPIDと一緒にやった“夢遊人”もあったよね。あとCOOL SPOONのシングルにキミドリとシャカとのユニット、TRF（TOKYO RUFFNECK FOUNDATION）で参加してて……それくらい?
上野 レアな存在っすよね。
ブロンクス 激レアでしょ。『V.I.C.TOMORROW』ってタイトルは、「BIG tomorrow」ってビジネス誌から取ってるんだよね。確か「ビジネス書は景気いい言葉がいっぱい書いてあるから、よく読んでる」ってどこかで言ってた。
上野 それは知らなかったなあ。なんなんだろうってずっと思ってたんだけど。
ブロンクス いい明日へ向けてっていう。でも、四街道はこの後あっさり活動休止しちゃって（笑）。
上野 （マイク）アキラさんが言ってたんですけど、トラックはみんなで作ってたみたいですね。KZAさんとかがネタを持ってきて、それをみんなであーだこーだ相談しながらトラックにしていくという。KZAさんとKENTさんが常に率先してやってたわけではないみたいですよ。
ブロンクス テレビ番組のオタク訪問のコーナーでアキラくんの家に行ったけど、ネタになりそうなレコードはC-C-Bと「きまぐれオレンジロード」のサントラくらいしかなかったけどね（笑）。
上野 ネタと言えばオニックスの“Shout”と、四街道の“あの集合地”が、同じネタを使ってるんですね。あれは当時結構話題になった。
ブロンクス “Shout”のピート・ロック・リミックスね。しかも、四街道の方が早かったんだよ。あとオニックスと言えばイチローがよくホッケー・シャツを着てたよね。dj hondaキャップと合わせて（笑）。ところで〈あの集合地〉ってどこなんだろう?
上野 四街道駅ですかね（笑）。そういえば去年、四街道駅に行きましたよ。千葉に行ってたんですけど、そのときすっげえ二日酔いで、ゲロを吐きまくったりしていて。ハッと気づいたら四街道駅に着いてた（笑）。「せっかくだから写メ撮ろうよ」って記念撮影してたら、かわいい人妻がやって来て「何してんの～」って逆ナンされて。
ブロンクス 四街道で（笑）。
上野 「いや、俺はラップ・グループにいて……」とか、どうでもいい話をして。俺はもう、とにかく辛かったんで、どうでも良かったんですよ。でも、一緒にいたみっちゃん*1が人妻好きでいろいろ話したり。「人妻エロいよ～」ってケツ見たりしていて。
*1 サイプレス上野も所属するZZ PRODUCTIONのメンバー。
ブロンクス 変態だ。フリーク・ナスティーだね。
上野 変態ですね。あと、この間の対談でアキラくんが、“あの集合地”とかのスクラッチはイリシット・ツボイさんがやってるって言ってましたね。
ブロンクス VORTEXから12インチも出してたよね。他にもVORTEXからは、LAMP EYEの“下克上”と……。
上野 あと、ジャンブラ（ジャングル・ブラザーズ）のマイク・Gと高木完さんの〈DOWNTECH〉って名義のシングル（“Make It Happen”）。それから、メッケ隊（笑）。
ブロンクス メッケ隊（爆笑）。スタイリストのグループだ。ロン毛でグラサン頭に乗っけてる人たちだよね? メッケ隊はリアル90'sだよ! ヤバいな～。ナオヒロックとメッケ隊のCDを両方持ってるやつがいたら、真の日本語ラップ・オタクとして認定するよ（笑）。
上野 VORTEXとは言え、あそこだけは手が出せなかったすよ。
ブロンクス 俺もメッケ隊は聴いたことないね（笑）。メッケ隊もラップだったのかな?
上野 聴いてないからわかんないんですけど（笑）。
ブロンクス あの当時のウォークマンには、みんなVORTEXのステッカーを貼ってたよね。
上野 ですね。Tシャツが欲しくて仕方がなかったなあ。アニさんとかが着てたりして。そういえばアルバムには石田さん（ECD）とCQ（BUDDHA BRAND）が参加してましたよね。“TAKE CARE OF YOUR ONAKA（おなか大切に'98）”で。
ブロンクス ああ、そうだ。〈TAKE CARE OF YOUR ONAKA〉も四街道のパンチラインだよね。
上野 元はビオフェルミンのフレーズですよね。で、この曲にはラップの乗ってない空白の時間があるんだけど、それは参加するはずだった石黒（景太）さんがレコーディングの時間に来なかったから、そのまま空いてるっていう（笑）。
ブロンクス アテツケで（笑）。カッコイイね、石黒さん。
上野 ハンパない存在感。参加してないのに（笑）。
