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第35回 ─ ELECTRO

第35回 ─ ELECTRO(4)

連載
Di(s)ctionary
公開
2009/02/26   19:00
ソース
『bounce』 307号(2009/2/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

III その後の流れと以降のシーンに与えた影響

 そんなわけで、マイアミ・ベースという異形のスタイルだけを残して、90年代になると表舞台からエレクトロは消えてしまったかのように思われた。UR一派のドレクシアやDMXクルーのようなエレクトロの遺伝子を受け継ぐ面々が支持を集めたものの、それらは〈ちょっとカルトなレトロ音楽〉に留まっていたし、ベース人気もいささかスノッブなものだった。

 でも、2000年代がそうじゃないのはご存知の通りだね。メジャーなヒップホップにおけるバウンスやクランクの流行がその根っこにあるエレクトロにも光を当てるようになり、地下世界ではゲットー・テックが脚光を浴びたり、クローメオのようにエレクトロ・ファンクをモダン化したユニットも出てきた。そうした流れを束ねる存在として、ディプロのようなDJが過去と現在を繋ぐ道筋を示したのも大きい。彼の送り出したM.I.A.やスパンク・ロック、ボンジ・ド・ホレなんかは、ビキビキしてるだけの面々よりもエレクトロの根源にあるブーティーでフレッシュなノリを受け継いでいると思うよ。もちろん最近の〈エレクトロ〉勢のなかにもパラ・ワンやDJメディのように直球な連中はいるし、DEXPISTOLSやジャスティスなんかは(ヒップホップ勢との相性の良さが裏付けるように)両方をわかってて上手く融合してる感じだね。

 それ以外にもフロウ・ライダーのようなフロリダ産ヒップホップには意識的な音も多いし、ZEN-LA-ROCKのような正統な伝承者もいる。安室奈美恵やAira Mitsukiのようにエレクトロ・ハウス経由でエレクトロを取り込む例も増えてきて、もうエレクトロは流行の〈エレクトロ〉とは違う意味で世界のスタンダードなんだよね。