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第35回 ─ ELECTRO

連載
Di(s)ctionary
公開
2009/02/26   19:00
ソース
『bounce』 307号(2009/2/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

I エレクトロの成り立ちと特徴

 今日の講議はエレクトロです。ん? 流行ってるから説明不要だって? いやいや、複数の意味合いで乱用されてる言葉だけど、エレクトロ(ニック)・ハウスもエレ(クトロ・)ポップも含め、形容詞的な意味で使う〈エレクトロ○○〉もすべて混同していないかな? いろんな音楽をゴチャ混ぜにして楽しむのは正解だけど、意味合いがこんがらがっちゃうと話も通じなくなるから、今回はそのオリジナルの部分を講義しておくよ。

 そもそも〈エレクトロ〉とは80年代初頭に誕生したダンス・ミュージックの一形態で、他と大別するためにエレクトロ・ファンクとも呼ばれているね。発端は、70年代から活動していたヒップホップDJのアフリカ・バンバータが、クラフトワークの2曲=“Trans Euro Express”のリフと“Numbers”のリズムを組み合わせたことだね。そのアイデアをプロデューサーのアーサー・ベイカーと具現化した曲こそ、かの有名な“Planet Rock”(82年)だよ。本来ヒップホップのDJは何でもターンテーブルに乗せるわけで、バンバータも坂本龍一の“Riot In Lagos”とか、欧州産のエレポップ(=シンセ・ポップ≒日本でいうテクノ・ポップ)なんかを気に入ってよくプレイしていたんだ。つまり、エレクトロはUSのソウル~ファンクに起因するフィジカルさと、エレポップのマシーン感覚が結び付いた音楽ってことになるかな。

 そんな成り立ちもあって、エレクトロはすぐにヒップホップの主流となるんだ。ドラムマシーンのTR-808がチキチキ&ドシドシ叩き出すチープなリズム・トラックと威勢の良いパーティー・ラップ、怪しいヴォコーダー……そんな原始的で機械的なサウンドはBボーイたちのニーズにピッタリだったんだね。“Planet Rock”を出したトミー・ボーイはプラネット・パトロールやジョンズン・クルーらのエレクトロを連発し、デトロイトでは後に〈テクノのゴッドファーザー〉と呼ばれるホアン・アトキンスがサイボトロンを結成して独自のエレクトロを作り出していった。

 ただ、徐々にサンプラーを活用したサウンド(ブレイクビーツ)とラップを重視した作品が主流になっていくと、基本がシンプルなエレクトロは一気に時代遅れの音になるんだ。80年代半ば頃かな。まあ、こういう音こそ聴かないとわかんないだろうから、まずは聴いてください。いろんな音楽が繋がって見えてくるよ。