
コーネリアスやsaigenji、堀込高樹(キリンジ)ら自他共に認める12組のカエターノ・フリークたちが、お気に入りのカエターノ・ナンバーを1曲ずつ選んだ豪華な来日記念盤『Caetano Lovers』が登場! 今回は同コンピの選曲陣を代表して、近年のカエターノ・サウンドの鍵を握るジャキス・モレレンバウムとの交流も深いGONTITIの両名と、カエターノに負けず劣らず幅広い音楽活動を展開している畠山美由紀が気の向くままにカエターノ談義を敢行。プレイヤー/シンガー、男性/女性……いろんな視点から彼の魅力を探っていきましょう。さて、どんな話が飛び出すやら?
チチ松村「カエターノって、すごく歌のうまい人だよね。やっぱり、声ばっかり聴いてしまうなぁ」
畠山美由紀「また歳をとってからは、一段と艶やかで伸びやかで……」
ゴンザレス三上「若い頃は思考が先行している感じ。最新作『A Foreign Sound』でも、ストリングスから激しい曲までいろいろやってるじゃないですか。でも、若い時は屈折の仕方がもっと激しいから、一筋縄ではいかない感じがおもしろいですよね」
松村「僕たちが知っているカエターノって一部分でね。昔からすごく前衛的なこともやっているし、その全部を聴いている人なら、また違った見え方がするんでしょうね」
畠山「でも作品がいっぱいありすぎて、全部聴くのは大変!」
三上「〈粋な男〉(『Fina Estampa』の邦題)あたりから、わりと一般的にも聴かれやすくなったというか。声が前面に出てきて、歌のうまさに気付いたっていう人は多いでしょうね」
畠山「あのキーの感じとかも不思議なんだよなぁ。けっこう内省的な、〈絶対にヒットしないだろうな〉っていう曲も好きで。ヒップホップとはまた違うけど、そういう新しいことにチャレンジする姿勢にもグッときますね」
松村「カエターノは新しモノ好きやからね。いろんなことに色気を示す人ですから」
三上「で、人とは違う、ちょっと変わった解釈でやってみる。顔は若い頃よりいまのほうがいいかなぁ。昔はイマイチ掴みきれないというか……」
松村「映画にもよう出とるし。〈トーク・トゥ・ハー〉とか〈フリーダ・カーロ〉とか」
畠山「映画好きなんですよね」
松村「うん、フェリーニに捧げるライヴもやってるし。すごいジャケットあるよね、海パンで股間を大写し!みたいな」
畠山「(笑)そういうの、いっぱいありますよねぇ。国外退去みたいになったり。ヘヴィーな体験してるんですよ、絶対」
三上「あの当時のブラジルはメチャクチャだったみたいですよね。ハワイのハーブ・オータさんの話によると、楽器を税関で全部没収されたらしいんです。それで、お金を払ったら〈じゃあ、演奏中だけ貸してやろう〉みたいな」
松村「そんな荒れた政治情勢のなかで、こんな豊かな音楽をできるのが不思議ですよね。犬でも雑種は強いと言われてますけど、ブラジルはいろんな人種の人たちが集まっているわけで。だからこそ、おもしろい音楽が生まれるというのはありますよね」
三上「今回のコンピで僕らが選んだのは、彼がジョアン・ジルベルトにインスパイアされてカヴァーした“Na Baixa Do Sapateiro”。ジョアンとカエターノの両方を楽しんでもらおうかなと思って。それと作曲者のアリ・バホーゾを含めると3世代に跨がった曲なんです」
畠山「なるほど~。私は“So In Love”を選びました。彼にいちばん共感できるのは、自国以外の曲もどんどん歌うところ。〈なぜ英語の歌を唄うの?〉ってよく言われるんですね。理由はいろいろあるけど、そうやってどんどん進化していきたいんです」
松村「やっぱりそこですよね、うん」
GONTITI
ゴンザレス三上(写真・右)とチチ松村(写真・左)によるインストゥルメンタル・アコースティック・ギター・デュオ。TVCMや映画など、さまざまなシーンで愛される美しいメロディーの数々は〈地球一番快適音楽〉と評される。ジャケは、ジャキス・モレレンバウムも参加した2004年作『XO』(Leafage/ポニーキャニオン)
畠山美由紀
Port of NotesやDouble Famousのヴォーカリストとして活躍する傍ら、2001年よりソロでも活動開始。その圧倒的な存在感のある歌声が話題となり、他アーティストの作品へのゲスト参加も数多い。ジャケは、2003年リリースの最新オリジナル・アルバム『WILD AND GENTLE』(chordiary/東芝EMI)