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インタビュー

大野雄二

リアリスト、大野雄二がルパンに込めるジャズへの想い
「僕らの音楽を聴いて、もっとコアなジャズを聴きたくなってくれればいい」

日夜精力的にカッコよく楽しいジャズを奏で、うら若きお嬢さんから筋金入りのジャズファンまでのハートを略奪し続けているイカした一味、大野雄二&ルパンティックファイヴ。彼らの最新アルバム『LET'S DANCE』が到着した。グループ結成5周年記念の1枚であり、ベーシストの井上陽介が加入後初となる本作。正面切って〈昭和〉という看板を掲げているが、きっと気合の入り方も違うのだろうと蓋を開けてみれば、ルパンや次元や五ェ門がピカピカの気障でいられた昭和の夜にワープできそうなゴージャスでお洒落な世界が眩く広がった。

「63、4年から70年代にかけての【ブルーノート】のアルバムが大好きで、今回はそういう要素がいっぱい入っています。ハードバップの4ビート・オンリーの時代から、60年代半ばにジャズ・ロックとかジャズ・ボサなど新しいリズムが台頭してきた。当時のブルーノート辺りでやられていたことって今に通じるものがあって、リズム的にあの頃のまんまやってもわかってもらえると思っていて。そこに今のものを合わせればもっと面白くなるはずだと思い、今回は特にそれを試している。そこに、よっちゃん(中納良恵)の昭和歌謡的な部分を加えたらインパクトがでかいだろうと。EGO-WRAPPIN'以上に中納さんって人がすごいなと思っていて、去年のエンディング・テーマのときに仕事してみたくなってね。すごいんです、よっちゃんは。相手が彼女じゃなきゃこんな曲作りませんから」

こんな曲とは、中納良恵がヴォーカルを務める《あの日の絵画》のこと。そして去年のエンディング・テーマとは、テレビ・スペシャル『ルパン三世 the Last Job』に使われた《笑う太陽》のことで、彼女は連続の登板となる。まるで不二子ちゃんを称えるルパンのように、よっちゃんのすごさを語るマエストロが心を盗んでいった彼女に書いた新曲はキャバレー音楽チックなスウィング・チューンで、本作の肝と言える。《Unchain My Heart》調のツイストにアレンジされたゴキゲンな《ルパン三世のテーマ》にも特別出演しているが、昭和30年代風の舞台が用意されている。もう一方、声の出演で、TBSアナウンサーの土井敏行が登場。彼の異名である「赤坂トーキングマシーン」の頭文字をタイトルにしたブラスロック・ナンバー《A.T.M》のサウンドは昭和40年代的、70年代に入った辺りのフィーリングである。

「去年からTBSラジオの『Kakiiin』に出させてもらって彼と話しているうちにいろいろ見えてきて。彼がよくやるテキ屋の喋りをどっかに入れたいと。で、1曲目に持ってきた。CMを長くやってたから、〈つかみ〉に関しては慣れたもんですよ。よっちゃん、土井さんときたら昭和しかないでしょう」

確かに平成というわけにはいかないだろうと思わせられるほど、コテコテでエネルギッシュな場面が次々展開していく。サム・テイラーのムーディーなテナー・サックスとしっかり結びついている《ハーレム・ノクターン》のセレクトも平成的とも21世紀的とも言いがたい。が、いきなり和泉聡志のロッキッシュなギターが閃光のように駆け抜けていったりして(氏曰く「あいつだけは放し飼いにしてる。それがルパンティックファイヴの特徴」とのこと)、レトロな気分に浸かってノンビリしていることはできない。あちこちにさまざまなスリルを仕掛け、聴き手をじっとさせておかなくするワザはさすが。

氏が『ルパン三世』を手掛けるのは昭和50年代に入ってから。当時はフュージョン・タッチの楽曲を多く書いていらっしゃったわけだが、もちろんその辺りのスタイルへのアプローチも行われている。例えばルパンファンから人気が高い《恋はサンパウロ》のリメイク。80年代ふうのアーバンなポップ・チューン《セクシー・アドベンチャー》も採り上げられているが、もちろんセレクトの理由はヴァリエーションをつけるためだけではない。

「これをやりゃウケるな、ってことじゃなくて自分が気に入っている曲ですよ。以前に発表したものと違ってテーマを使いつつアドリブを重視した作りになっているから、曲が新しくなっているけどね。ジャズの初心者たちがね、僕らの音楽を聴いて、もっとコアなジャズを聴きたくなってくれればいい、そういう貢献ができればと実は思っている。これまでずっとジャズが好きでやってきたわけですから」

加えてここには、スタンダードを残したいという意識も強く感じられる。

「そうですね。僕はこれまで〈ド〉が付くまともな音楽をやり続けてきた人間だから、王道中の王道しかやりたくないんだよね。『今度のアルバム、変わったね~』とか言われたくない。変えようと思えばいくらだってできるよ。だってヘンな曲書きゃいいんだから(笑)。いつも嘘ついていない自分を出したいわけ。それが駄目ならそこで終わっちゃう。終わらせないためには必死で努力しないとね」

今回も最初から最後までルパンティックにスリリングに過ぎていくアルバムになった。おまけにとびきり濃厚で。

『Lupintic Jazz Live Tour 2011 Summer ~Let’s Dance~』
Yuhji OHno & Lupintic Five

6/23(木)Billboard Live OSAKA
6/24(金)札幌市民ホール
7/2(土)埼玉三芳町文化会館
7/8(金)長岡リリックホール
7/10(日)NAGOYA Blue Note
http://www.vap.co.jp/ohno/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年06月24日 19:44

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text : 桑原シロー