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インタビュー

庄司紗矢香

バッハとレーガー、時代を隔てた巨匠たちを往還する愉しみ 庄司紗矢香(ヴァイオリン)


photo:Julien Mignot

その瑞々しい才能に世界の巨匠たちも目をみはった少女時代から、庄司紗矢香はじっくりと自らの音楽を磨き続けてきた。世界的なキャリアを重ね若手ヴァイオリニストの中でも輝かしい高峰に立つ──しかしお会いするといつも実に謙虚な彼女も、今年の〈ラ・フォル・ジュルネ〉に登場。凄腕タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ)と共にブラームス〈ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲〉を弾くほか、ふたりがソロを弾きあうプログラムも。音楽史の巨人バッハと、20世紀初頭にかけて活躍した作曲家レーガーのそれぞれ無伴奏作品を。これはミラーレ・レーベルから先日発売された、庄司紗矢香の新譜・無伴奏アルバムにも収録されたふたりだ。

「私にとってバッハとレーガーは本当にごく自然な、そして必然的な組み合わせでした。‥‥いつかバッハを録音したいとは思っていましたが、バッハとの繋がりや対比という意味でも、レーガーを併せてCDにするのが夢でした。レーガーは明らかにバッハ作品からインスピレーションを受けています。二人とも教会オルガン音楽の作曲家でもありましたし、実際に同じ素材を使っていたり影響は非常に強い。その類似と対比を表現したかった。どちらの作品も、深い感情をベースとして本当に密度が濃く、技術的にも非常に優れたもので、根底に大変に巨大なものがある。この離れた時代を生きた二人の作曲家を行き来できたら面白いと思ったんです」

それをLFJでも実際のステージで体験できるとは愉しみだ。しかもヴァシリエヴァもバッハとレーガーの無伴奏チェロ作品を弾くというユニークな共演だ。

「バッハといってもいろいろな顔があって、決して厳しいだけの世界じゃないし、癒しだけでもない。とても自然な人間の感情表現が素朴な次元で表されている音楽だと思います。技術的にはバッハもレーガーも難しいんですけれど、レーガーはとにかく音が多くて無茶もある。譜面をぱっと見たとき、本当に演奏可能なのかな、と思う和音もある。ストイックで厳しい面もあるんですが、複雑さの中にもマジカルなモーメントがあって、それが和声の色彩と相まってはっとするような発見がある。面白い作曲家なんですよ。そういうことを一緒に発見していただけたらいいな、と思います」

LFJでは他にもヴァシリエヴァやジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(ピアノ)とブラームスのピアノ三重奏曲第1番を共演したり、シャニ・ディリュカ(ピアノ)とのステージではレーガー〈ロマンス〉にブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番《雨の歌》など、ドイツ音楽の巨人たちが残した傑作群を組み合わせる。

「シンプルに愉しんでいただければ、いちばん嬉しいかな。結局、きわめてゆくと、たどりつくところは素朴なものだったりすると思います」と微笑む庄司。入りやすくも深い傑作の世界を、若き名匠が磨き抜く。

 

庄司紗矢香 (しょうじ・さやか)アシュケナージら世界屈指の指揮者達と一流オーケストラにて共演を重ね、リサイタル分野でも活躍中。これまでにドイツ・グラモフォンから6枚のCDをリリース。使用楽器は、上野製薬株式会社より貸与の1729年製ストラディヴァリウス“Recamier”。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年05月27日 13:00

更新: 2011年05月27日 19:27

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview&text:山野雄大