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インタビュー

山田和樹

一流楽団の個性的サウンド、体感〜山田和樹(指揮者)

半世紀遅れのオザワ2世? 1979年生まれの山田和樹が小澤征爾から数えて50年後の2009年、フランスのブザンソン国際指揮者コンクールに優勝した際は情報が余りにも乏しく、ありがたくない見出しが躍った。2人の間にも何人か、ブザンソンで優勝した日本人指揮者はいるが、トップバッターだった小澤が格別に気に入り、総監督を務めるサイトウ・キネン・フェスティバルの指揮台へ昨年すぐさま招いたのは、山田にとっても幸運だった。東日本大震災で3月の帰国が流れたため、メールを介し、山田の近況に迫ってみた。

──ブザンソン優勝から2年。何が一番変わりましたか。

「視野が広がったことだと思います。今までより踏み込んで世界を観る、知ることになり、文化や考え方の違いに行き当たることも増えました。優勝をきっかけに様々な国の一流オーケストラを指揮する機会に恵まれ、それぞれの個性的サウンドを〈体感〉できるようになったことで、自分の音楽づくりも大きく変わりつつあります」

──外から見た日本の音楽界は。

「率直に申し上げて、日本では知られていない凄いアーティストが世界にはまだまだ、いるということです。日本では有名だけど、ヨーロッパでは名前を聞かない例も……。 日本は良く言えば堅実、悪く言えば閉鎖的な側面があり、若手の発掘には欧米の方が熱心です。日本の音楽界最大の長所は企画、制作、運営の組織が完ぺきな点です。これは外国人アーティストも、口をそろえて褒めます。世界に誇れる日本の素晴らしさだと思います」

──目下のレパートリー、オペラへの取り組み。

「日本ではドイツ、ロシア系のレパートリーが中心でしたが、マーラーやブルックナー、R・シュトラウスの大作を取り上げる機会はなかなかなく、ぜひこれから、挑戦できればと。ベルク、シェーンベルクら新ウィーン楽派の音楽にも興味が湧いてきているところです。現在は拠点をドイツのベルリンに置いています。ただパリ管弦楽団との共演、スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者という環境を得たので、ドビュッシーやラヴェルを中心にフランスものもたくさん、吸収して行きたい。エルガーやホルスト、ウォルトン、ディーリアスらイギリスの作品も将来は手がけたいです。念願のオペラ指揮は、2012年にデビューする計画。先ずはイタリアのヴェルディ、プッチーニから始められればと考えていますが、バイロイト音楽祭でワーグナーを指揮したいとういう大それた夢もあります」

──小澤征爾さんとは。

「昔も今も、圧倒的な〈人間〉の大きさ、魅力がいっぱいにつまった存在。自分に限らず、多くの若手音楽家に機会を与えていることも、小澤さんならではの活動です。自分もブザンソンのご縁に始まり、サイトウ・キネン・オーケストラに呼んでいただくという大変に大きな幸せ、チャンスをいただきました。自分は小澤さんによって守られているのだ、と気付けたのはようやく最近のことです」

山田和樹 (やまだ・かずき)

東京藝術大学指揮科卒業。2009年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。パリ管・BBC響・ベルリン放送響・サイトウキネンオーケストラなどを指揮。2012年9月よりスイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者に就任予定。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年05月23日 13:00

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview&text:池田卓夫(音楽ジャーナリスト)