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インタビュー

小林愛実

さらなる可能性へ、熱情が迸る16歳のセカンド・アルバム

「ステージに出る時、最初はドキドキしてるけど、弾いてるうちにどんどん楽しくなります。デビューしてからは『コンサートを成功させなきゃ!失敗できない!』って思うようになって、怖くないように練習するようになりましたし」と笑う小林愛実。この春から高校生だ。桐朋学園の歴史でもピアノでは初の学費全額免除特待生というから凄いが、7歳でオーケストラと初共演、内外のコンクールを次々に制覇して、日本各地はもちろんフランス、アメリカ、ロシア、ポーランド、韓国と世界で重ねてきた演奏経験は既に数知れず。彼女のコンサートでは、驚くほど感情表現ゆたかに全身を動かして演奏に没入する姿も強烈だ。コンサートが進むにつれてさらに客席を巻き込む彼女、「いちばん楽しいのはアンコールです。すごく自由に弾けるしいい演奏ができます(笑)」

昨年には、13歳にしてベートーヴェンのソナタ第21番《ワルトシュタイン》やショパンにバッハと流暢に熱く弾いてみせたデビュー盤を発表、今春は2枚目のアルバム『熱情』を発表した。冒頭、ベートーヴェンのソナタ《悲愴》から思い入れも熱い演奏が噴出してくるが、「私はあんまり理論的に考えて弾かないので、自然に感じたことをそのまま音楽に表現しちゃうんです。ベートーヴェンは凄く熱くて深いじゃないですか。私は、天才的な明るさや軽さも表現しなきゃいけないモーツァルトでも、ベートーヴェンみたいにがっつり弾いちゃうんですけど…」と苦笑するあたりは若さというべきか。しかし若さゆえの気迫が新譜にもみなぎっている。

しかし、今回のレコーディングは「弾いてるうちにすごく変わった」という。もともと作品イメージをはっきりと持った上で全身投入するタイプのピアニストだが、レコーディングではエンジニアがさらに多くの音楽的提案をぶつけ、その格闘でまたひらけてきたものも多かったとか。「《熱情》でもいろんなパターンを弾いてみて、どうやったらいいのか考えすぎちゃって…。でも自分に意地があっただけで、エンジニアさんは本当に音楽をよく分かってるかたですから、言ってることがすごく正しい。レコーディングでいろいろ分かったこともあって、すごく楽しかったです」

練り込んだその成果もお聴きいただきたいところだが、新譜の最後はシューマン《子供の情景》。「シューマンの深い奥にあるものを出してゆくのは難しい! 私は思ったまま表現しちゃうから、やりすぎちゃわないように気をつけました。3曲目の《鬼ごっこ》も戦争みたいに弾かないように」と笑う彼女、今後の成長も楽しみなところだが、「まだあまり近現代の作品を弾いたことがなくて、プロコフィエフとかを勉強していきたいと思います」と意欲を語る。高校時代もぐいぐい変貌を遂げてゆくのだろうけれど、その鮮やかな原点を既にアルバムで表現しきっているあたり、末おそろしい存在だ。

『小林愛実ピアノリサイタル“熱情”』
シューマン:子供の情景Op.15/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ単調「悲愴」Op.13/ラヴェル:ソナチネ/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番へ単調「熱情」Op.57
5/8(日)14:00開演 
会場:東京オペラシティコンサートホール
http://www.emimusic.jp/classic/aimi/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年04月21日 19:03

更新: 2011年04月21日 19:15

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview & text : 山野雄大