インタビュー

Steve Grossman

「次の世代がマスターからジャズの伝統を学んでほしいね」

サクソフォニスト、スティーヴ・グロスマンは、マイルス・デイヴィスの『ジャック・ジョンソン』(1970年)の混沌に、18歳という年齢で巻きこまれた。あらゆるジャズのカオスを通過して、70年代半ばには、今日のクラブ系ジャズに影響を与えたストーン・アライアンスを結成する。「マイルスのバンドでは何をやっていたかよくわからなかった。ドラムとのデュオになるようなシーンでは、楽しくて、ばりばり吹いた。若い頃はとにかく練習したよ。他になにもすることがないから、すぐにいろんなことが身に付いた」と、動画サイトにあがっているインタヴューで当時を振り返っている。あの時、彼はマイルスのエレクトリックサウンドの中で、溢れるような混沌としたフレーズを吐き出すように吹き続けていた。それは、スタイルやアプローチといえるような単純なものではなかった。

2011年、中村照夫のプロデュースのもとNYCで制作された最新作は、しかし、驚くべき洗練を経たスタイリッシュなラテンジャズに仕上がった。ケニー・ドーハムなど、ハードバップの名曲をストレートに演奏している。60歳という年齢のスティーヴ・グロスマンは、50年代にレイドバックしたラテンジャズのどまんなかに着陸した。

スティーヴは、ブルックリンに生まれ、育った。同じ頃、ブロンクスでは、ルンバクラーヴェのスウィングを身に付けたジェリー/アンディ・ゴンザレス兄弟が育っている。今回のレコーディングに参加しているミュージシャンのほとんどは、この兄弟のバンド、フォートアパッチスクール出身であるといっても過言ではない。以前にスティーヴが共演を重ね、今回のレコーディングメンバーのひとりでもあるピアニストのラリー・ウィリスは、長い間フォートアパッチバンドのピアニストをつとめている。コルトレーンのコンセプトに隠されていたスティーヴのもうひとつの魅力が、ストーン・アライアンス以降、ストレートなジャズのフォームとともに、忽然と現れた。

「私はいつだってルイ・アームストロングやジョン・コルトレーンといったジャズが好きだった。こうした好みが最近の演奏に出ているのかもしれないね。ジャズは、私の人生そのものだ。15歳の頃は、アルトサックスで、ハードバップとか、ビーバップを吹いていたよ。昔は、とにかくいろんなシチュエーションで演奏できるようがんばった。私自身がどうかわってきたかわからない。ただエルヴィン・ジョーンズ、マイルスといったミュージシャンと共演して、ずいぶん成長した。ジャズジャイアンツがたくさん、亡くなってしまったいま、ジャズの今後がどうなるのかわからないが、それでも次の世代がこうしたマスターからジャズの伝統を学んでほしいね」

 菊地雅章は、彼のことを強烈なオリジナルなヴォイスをもつが、コルトレーンのコンセプトに頼り過ぎだと指摘したことがある。活動初期にはジャズの大きな歴史の流れにもまれ、状況を乱反射させてきた彼から今聞こえてくるのは、とても静かな歴史の本流そのものなのかもしれない。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年03月03日 16:28

更新: 2011年03月03日 16:34

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text :高見一樹