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インタビュー

青葉市子

自己流を貫く剃刀乙女、いよいよブレイクか。
────「何かを表現しようと思ってやっているわけじゃない」

昨年から一部で話題になってはいたが、いよいよ今年は大ブレークしそうな気配。いや、きっとする。断言しよう。それほど、すごい、この人の才能は。青葉市子。

京都出身のシンガー・ソングライター。17歳からギターを爪弾き始め、翌年には歌を作りだし、昨年成人式を迎えたばかりの弱冠二十一歳の乙女。ちょうど1年前にデビュー・アルバム『剃刀乙女』を出し、先月2作目『檻髪』がリリースされた。どちらも、完全ソロの生ギターの弾き語り作品だが、そのギターというのがクラシック・ギター(ガット・ギター)であり、通常のコード・ストロークとかフォーキーなフィンガー・ピッキングではない、かなり破天荒なアルペジオ。歌は…そう、荒井由実や金延幸子の最初期とか、あるいは70年代の大貫妙子を彷彿とさせる超高感度なモノローグ少女風。と同時にリンダ・パーハクスとかヴァシュティ・バニヤンにも通ずる夢幻的エロティシズムも。

時にオーケストラのごとく豊かな広がりと跳躍を見せるテクニカルなギターの弦の一音一音、耳元で震えるような、それでいて強い意志を感じさせる歌声、そして漆黒の無音部分まで含め、無駄なものはひとつもない、そしてすべてが濃密に絡まり一体化した完璧な世界。誰一人侵すことのできない、神聖なる王国…。これほど心震わされる逸材、そうそういない。

中学時代は吹奏楽部で3年間ずっとクラリネットをやり、高校では軽音楽部でバンドをやっていたという青葉市子。そこでは曲ごとに、空いている楽器をいろいろやった。キーボード、ギター、ドラム、ベース。

「すべて自己流です。コードは、今でもわからない。バンドでは、曲を聴いて耳コピーしていた。東京事変とかアジアン・カンフー・ジェネレーションとか。でも、エレキ・ギターは私の性には合わなかった」

で、ある日、自宅に転がっていたガット・ギターを爪弾いてみたら、たちまちとりこに。

「教則本は、バッハの楽譜を一応買ったけど、わからなくて、結局ほとんど使わなかった。基本的な指使いも、すべて自己流。遊んでいたら、今のような演奏スタイルになったんです」

と言いつつ、あのギター・テクニック。最初CDを聴いた時、クラシック・ギターの専門的レッスンと並行してフラメンコやボサノヴァも勉強してるんだろうと思ったのだが…。にわかには信じがたい発言だ。

雛人形のように小さく白い顔を隠す、まっすぐな長い髪。そして、すぐそばまで顔を近づけないと聞き取れないほどに小さな声。それでいて、会っていきなり「これ、どうぞ」とパック詰めの菜の花(南房総産)を差し出す大胆さ。プラスチック・パックの表面には、ご丁寧にもマジックでETのような自作イラストが…どう対処していいのやら。不思議な人である。

長くなるので詳細は省くが、ネット上にたった一つだけ上がっていたライヴ映像(人前で歌いだして間もない09年初頭のもの)が、あっという間にデビュー・アルバム制作にまでつながったのも、ラッキーというよりは、やはり彼女のポテンシャルの高さゆえ。そのデビュー作『剃刀乙女』は、まさしく剃刀のような鋭さと憂愁を湛えたものだったが、新作『檻髪』には、いくぶん明るさ、柔らかさがある。ほんのりと陽光が差しているというか。「どちらも、コンセプトのようなものは一切なく、ただ、作りためた曲を入れただけ」というが、その間、様々なイヴェントで多くの先輩ミュージシャンたち(細野晴臣とか大貫妙子とか)と音楽的にも物理的にも身近に触れ合った経験が、わずかながらも着実に影響を及ぼしたのだろう。安易に人を寄せ付けず、まるで自分だけに向けて歌ったような前作に比べ、新作は、自身の世界を頑と守りつつも、他者への扉も静かに開かれている。

「シンガー・ソングライターになろうと思ったことも、シンガー・ソングライターだと意識したことも、一度もありません。歌が自然にでき、それが楽しいからやっているだけなんです。そう、ごはんを食べるとか、寝るとか、そういうことと同じ感覚ですね。何かを表現しようと思ってやっているわけじゃない」

だからこそ生まれる、不思議なまでの強靭さ、なのか。

最後に、青葉自身のホームページの日記から、昨年暮れに書かれた言葉を引用。

「一歩どころか十歩前を歩く青葉市子のかげに隠れながら、恐る恐る進んできた一年でした。とんでもなく自信に満ち溢れた私と、とんでもなく臆病な私がもみくちゃ。しかしこれでいいのだ。不安定さの溝から沸いてくるものに私は惹かれる」

青葉市子のまだ知らない「青葉市子」。どこまで高く飛べるだろうか。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年02月24日 20:27

更新: 2011年02月25日 17:13

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 松山晋也