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インタビュー

Spencer Day

 

「グレイト・アメリカン・ソングブックの伝統を継承したい」

10月に行われたデイヴ・コーズの来日公演。その舞台に、見るからに好青年といった感じのシンガーが現れ、エルヴィス・プレスリーの《Love Me》なんかを小粋に歌い、観客の目をひいた。彼の名はスペンサー・デイ。昨年メジャー・デビューを果たしたシンガー・ソングライターだ。

クレア&ザ・リーズンズに通じるようなノスタルジーを浮かばせたポップ・ソングが並ぶアルバム『Vagabond』は、このニューカマーの幅広い音楽性を垣間見せる良作に仕上がっている。おじいちゃんはみんなカウボーイ、という彼は自然に溢れた環境で幼少期を過ごす。母親はオペラ好きで歌をやりたかったそうだが、父親がそれをあまり良く思わず、結局離婚してしまったんだとスペンサーは話す。

「両親の仲が良くなかったせいもあって、僕にとって音楽は現実から逃避させてくれるものだった。3歳の頃に出会った『くるみ割り人形』のことをよく覚えてるな。なかでも《アラビアの踊り》が好きで、遠くへ行きたいって僕の思いを叶えてくれる理由から惹かれていたんだろうね」

カリフォルニアに移住し、やがてジャズに開眼。なかでも自分の声質に近いと感じたチェット・ベイカーはかなり入れ込んだとのこと。彼曰く、都会の音楽であるジャズに生まれ故郷のアーシーな音楽が混ざり合ったものがベースになっているとのこと。

「小さな街を出て、大都会へと向かった僕の旅路を今回歌詞に書いたんだ。メロディ面ではロイ・オービソンやダスティ・スプリングフィールドなど60年代ポップスからの影響も出してみた。これはデイヴと趣味が一致するんだけど、バート・バカラックが大好きで、彼の影響もかなり出ているはず。ただ、新プロジェクトではC&Wの色彩を濃くしたアメリカーナ・サウンドをめざしているけどね」

雑多なジャンルをセンス良くフュージョンさせられるのが彼の長所。そんなテクを駆使し、オーセンティックなスタイルにコンテンポラリーな要素を溶かし込んでイキイキとしたポップスに仕上げる腕前はなかなかのものだ。

「いまアメリカでは〈グレイト・アメリカン・ソングブック〉と呼ばれる古き良き時代の音楽の復興運動が盛んで、ルーファス・ウェインライトなんかはそういう方向性の音楽を作っているよね。50〜60年代はソングライティングの高度なテクニックをストレートに反映した曲が多く生まれた。その伝統を僕も受け継いでいきたいと思っている」

彼にとって以前音楽とは鬱屈とした生活から自己を解放してくれるものだった。が、現在はもっと大きな視点で音楽を捉えているという。

「ミュージシャンとなったいまは、音楽が聴き手の心を癒す効果について考えるようになったよ。また僕のなかに湧き上がる感情がどこから来たものなのかを確かめさせてくれるものが音楽なんだと考えるようになったかな」

この先、彼の目がどんなものを捉え、いかなる音楽を生み出してくれるのか、楽しみにしたい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月24日 21:06

更新: 2011年01月24日 21:17

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text : 桑原シロー