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インタビュー

Hugo Fattoruso

鍵盤職人が情熱を傾ける伝統の太鼓音楽、純正カンドンベ!

2010年8月に南米3ヵ国6都市を横断した『トランス・クリオージャ』ツアーが、11月の凱旋公演をもって完結。松田美緒(歌)、ヤヒロトモヒロ(パーカッション)とともにじっくり練り上げた珠玉の演目で、圧巻パフォーマンスを披露したウーゴ・ファットルーソ。もはや職人芸の域にある、ウルグアイ出身の名ピアニストだ。

凱旋の舞台で本邦初お目見えとなった、アフリカ系太鼓音楽カンドンベは、200年の歴史を誇る郷土の遺産。ピアノ、レピーケ、チコの3種タンボールをスティックと掌で叩く。サルサのクラーベにサンバの弾みをつけたようなリズムが、すこぶる心地よい。派手さはないが、緻密な響きからは、原初の〈語り〉が聴こえてくる。

「7年前、純粋で混じりっけのないカンドンベ音楽の演奏の必要から〈レイ・タンボール〉を結成した。タンボール奏者のすぐれた技と特徴を際立たせる、従来存在しなかった純正カンドンベのグループだ」と語る御大。彼のいぶし銀のヴォーカルに朗誦、ピアノ、アコーディオンと、3名のタンボール奏者が織りなすアンサンブルは絶品。これまで芸能として商業ベースに乗らなかったぶん、ピュアな魅力とエネルギーを温存できたのだろう。

「首都の3つのバリオ(都市下層民の居住区)、コルドン、パレルモ、バリオ・スールに、共通の異なるスタイルがある。カンドンベはリズムと踊りだけ。後に詩や旋律がつけられたが、元来タンボールを叩き、踊りながら行進するための音楽だ。長らく3つのバリオ内だけで行進していたが、今や多くの白人居住区でも行われる。毎週末、土曜と日曜に各バリオでね。カーニバル期には審査員と賞がもうけられ、2日間にわたり賞獲得を争う。正式には〈コンクルソ・デ・ジャマーダ(呼び声コンクール)〉と称し、現在約40グループが参加している」

パレードで、面白いキャラクターが登場するとか?

「グラミジェーロは癒やしの男、薬草術をもつホームドクターだ。ママ・ビエハが貫録のご婦人で、いつも扇で煽いでいる。エスコベーロは鏡つきの衣装で小箒を携え、皮肉を振りまいて踊るトリックスター。ほかに愛らしい子供たち、ビキニ姿の美女ベデッテなどがいる」

73〜85年の軍事政権下、黒人コミュニティ主導のカンドンベが、禁止の憂き目に遭うことはなかったのか?

「軍政期には禁じられた。政府は、彼らの暮らす共同住宅コンベンティージョ(2階建てのつましい長屋)を戦車で打ち壊した。固有の黒人文化を断ち切るためにね。住民は各地へ逃亡離散した。バリオを奪われたんだよ」

少年時代、隣接エリアから父親に連れられバリオ通いしたという、ウーゴならではの貴重な証言だ。もっとも、彼も両親もモンテビデオ生まれだが、両祖父母はイタリア移民。「サレルノに行ったらファットルーソ一族がいて、ウーゴみたいな身体つき、同じ顔してる人がいた!」との、愉快なヤヒロ証言もある。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月19日 16:53

更新: 2011年01月19日 17:01

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text :佐藤由美