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インタビュー

Giovanni Mirabassi

ピアノのストーリーテラー、ミラバッシの会心作

日本でも人気の高いパリ在住のイタリア人ピアニスト、ジョヴァンニ・ミラバッシが、今年4月に自身のトリオで行った日本公演の模様を収めた『ライヴ・アット・ブルーノート東京』を発表した。メンバーのジャンルカ・レンジ(b)とレオン・パーカー(ds)は、ミラバッシが2007年に『テラ・フリオサ』のレコーディングの際にゲストのつもりで声をかけたが、スタジオで初対面の状態で音を出したとたんに気に入ってしまい、そのままアルバム全部をレコーディングしてしまったほど息の合った仲間である。また、会場となったブルーノート東京も、「音楽を演奏するには最高の場所で、ライヴ盤を作る機会があったらぜひここでレコーディングしたい」とかねてから語っていたほどのお気に入りである。

この作品でもうひとつ注目すべきは、日本盤向けボーナス・トラックのスタンダード《あなたなしでは》を除く全曲が、メンバー3人のいずれかによる書き下ろしだという点にある。「このバンドはライヴの演奏が素晴らしいんだけれど、その雰囲気をスタジオに持ち込むのは難しいんだ」と語る彼は、往々にしてベスト盤的な性格を帯びることの多い〈ライヴ盤〉ではなく、アーティストとしての〈新作〉を最高の条件でレコーディングするために、トリオが最も真価を発揮するライヴという環境を選んだのである。

ジョヴァンニのオリジナルは、バラク・オバマが米大統領に当選した2008年11月4日に書いたという《ワールド・チェンジズ》から、敬愛する故ハンク・ジョーンズに捧げたというスウィングの効いた《イッツ・アス》、ピアノとベースによる心にしみるデュエットの《マイ・ブロークン・ハート》まで、題材の点でも音楽表現の点でも幅広く、そこにジャンルカの《ニューヨーク・ナンバー・ワン》と「ヒアズ・ザ・キャプテン》やレオンの《イット・イズ・ホワット・イット・イズ》が加わって、個性豊かで聴き所の多いアルバムを作り上げている。

「僕らはとても仲好しだし、このトリオのサウンドは3人で築き上げたものだから、ジャンルカやレオンがこのトリオのために書いてくれた曲なら取り上げたいと思っていた。もちろん、演奏も上手くいったと思うよ」

ジョヴァンニによれば、このトリオではもともと3枚のアルバムを作るのが目標で、このライヴ盤はその締めくくりになるという。その意味でも、このライヴ盤は彼にとっても思い入れのある作品であるはずだが、当人は至って冷静である。

「自分の名前で出すアルバムだから、ベストを尽くしたのは当然だけれど、作品として一度世に出したが最後、僕にはもうコントロールできない。みんなが楽しんでくれれば嬉しいけれど、どんな批判でも受け入れる心の準備はできている。僕にとっては、美しく偉大な作品を作ることよりも、美しく偉大な心で作品に取り組むことの方が重要なんだ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月13日 19:37

更新: 2011年01月13日 19:41

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text :坂本信