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インタビュー

武満眞樹

武満徹『マイ・ウェイ・オブ・ライフ』
────「大事なのは音楽作品から舞台がつくられたということで、逆じゃないということかな」

2004年から05年にかけて、ベルリン、パリ、東京でおこなわれた『マイ・ウェイ・オブ・ライフ』の舞台が、DVD/Blu-Rayでリリースされた。

作品をご存知ない方のために説明しておくと、武満徹の作品を、演出家のペーター・ムスバッハが〈舞台〉化したもので、作曲家が生前構想しつつも、手をつけることができなかった〈オペラ〉の記憶を、べつのかたちで再生し、武満徹へのオマージュとした、とでも言ったらいいだろうか。
舞台から5年経ち、映像として蘇る。しかも、武満徹が生きていたら80歳の年に。この機会に、制作のプロセスについても詳しく知っている武満眞樹さんにお話をうかがった。

「何よりも、作っていた人たちの裏の苦労をいろいろ知っているので、多くのひとにみてもらうことができる、というのがありますね。実際の舞台より、わかりやすいのも映像の利点です。ムスバッハがこまかい演技指導をしていたのが、こういうかたちでみて、やっと、捉えることができたりもしました。この演出家は、考えたことを100%表現するひとではないんですね。だから、こういうふうに映像化されることで、意図されることが鮮明になる。ですから、舞台に接しているひとでも、これをみることで〈わかる〉こと、〈気づく〉ことがいくつもあるとおもいます」

「武満徹という作曲家の音楽をサカナにはしているけれど、わたしはむしろ、ムスバッハの作品、と捉えているんですね。徹さんは、自分の遺したもので遊んでもらえている、いじってもらえる。これって、しあわせなことですよね。作曲家っておもしろい職業だとあらためておもったりするんです」

「コンサート用の〈現代音楽〉を中心にしているでしょう? 企画をすすめるときに提示したのは、音楽を切り刻んだりしないなら、あとは自由にしてかまわない、ということでした。こうした作品は楽器の音色とかはいじれません。そこに意味があるわけですから。もちろん、こうした舞台のあとにはいろいろ言うひともいたし、それはそれで考えとしてありうるものです。そのうえで、こうしたムスバッハの試みはひとつのかたちとしてわたしはおもしろいとおもっています。そもそも、武満徹という作曲家をまったく個人的に知らない、会ったことのない外国の演出家が、音楽、楽譜のみによって、こうした舞台をつくりだしたというのは奇跡的なことじゃないかしら。お金もかかっているし。ひとつの芸術のかたちとしてね」

「コンサートのための、シリアスな音楽からすると、日常の武満徹はみえにくい。でも、ひととして日常では違うところがあったんじゃないか。ムスバッハはそうおもっていたんです。まだあまり武満徹という人物のことが広く知られている前からね。だから、はじめての記者会見だったかな、生前の武満徹がどんなひとだったのかを家族やまわりのひとから聴いたのかとの質問に対して、音楽からだけで充分だし、自分にはそうしたエピソードなど必要がない、と言ったわけ。それは印象的だったな。だけれどもね、結果的に、一瞬の何かが、家族にみせる武満徹の一面だったり、恥ずかしいほどロマンティストだったりとか、でてきたりする。だから、ムスバッハはそれを見抜いていたんでしょう。音楽からくみとっていた。徹さんが生きていて、話をしたら、きっと仲良くなったんじゃないかしら」

「どんなところに、徹さんの素顔が垣間見えるか? うーん、どこに、というのはむずかしいな。むしろ、細部にというより、見終わったときにそうおもう、とでも言ったらいいかな。そう、いろいろなものがごちゃまぜになっていたりするところ、あるいは、お遊びでつくったようなものが最後にでてきたりというところとかも、かな」

「おもしろいのは、舞台に接したひとからも、現代音楽のとっつきにくさについて言われなかったこと。むしろ、ロックのミュージカルをみたようなかんじ、とかね。ストーリーもあるようでないようで、でしょう? だから、見る人によってちがったし、勝手にストーリーを想像してつくっていたりしてね。大事なのは、だけど、音楽作品から舞台がつくられたということで、逆じゃないということかな」

「映像は東京文化会館で撮られたものです。ベルリン、パリ、東京とやってきて、少しずつ変わっていったんですね。最後の東京がいちばんまとまっていたし、それが収められています」

「もうひとつのドキュメンタリーは、わたしが言うのもおかしいけれど、貴重なものです。よくこんなものが、というものがありますよ。NHKはすごいなあ、って(笑)。学校のときの音楽の先生がでてくるとはおもわないじゃない?」

「生きていたら80歳? 感慨? なーんにも(笑)。生きていないひとの年齢を数えるなんてヘンだって、おかあさんも言ってるしね」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月11日 19:24

更新: 2011年01月12日 13:12

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text :小沼純一 (音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)