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インタビュー

David T. Walker

「毎日練習あるのみだよ」
──新作『FOR ALL TIME』は、〈ギターの神様〉の日常に溢れる愛がテーマ

優しくもなれれば、穏やかな気持ちにもなれる。心を震わせることも揺さぶることもできる。そうやって、こちらの心の在りように見事に答えてくれる。それほど大きく、深く、広く、柔らかく、豊かな音色を奏でるのだ。デヴィッド T.ウォーカーの新作『FOR ALL TIME』を聴いていると、漠然とで申し訳ないが、この宇宙に音楽が存在するというそのことにさえ感謝したくなってくるのである。

「アルバムのタイトルが、まさにぼくの伝えたかったことや想いであり、楽曲やその曲に対する想いが含まれている。また、ぼくの日常に溢れている愛が、タイトルになったとも言えるかもしれないね。とにかく、いろんなジャンルの音楽を、年代を超えて一つの作品として作りたかったんだ。そこにぼくのオリジナルも加わり、難しいパズルが完成するような、もしくは素敵な一枚の絵画ができるような、そんなアルバムを残したかった。現代を同じ教養のもとで生きている者として、このアルバム全体を聴いて、感じて、理解してもらえたら、と思う」

実際に、アルバムには、ビリー・ホリデイからホレス・シルヴァー、アル・グリーン、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ビートルズまで、異なるジャンルのカヴァーがオリジナルと一緒に並んでいる。それも当たり前のように自然に、心地よさそうに。「ぼくの好きな曲ばかりだよ。そしてそれを尊敬し、理解し、それを自分のギターを通じてそのフィーリングを表現しようとした」

マリーナ・ショウがゲストで参加しているのも話題のひとつだ。彼女の『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』での、彼の快演はよく知られるところだし、昨年は、その再現とも呼ぶべき日本公演を一緒に行ったが、それに続いての共演ということになる。

「ずっと前から仕事をしているけど、ユーモアのセンス、パーソナリティ、そしてアーティスト性と創造力を兼ね備えた彼女の歌声、どれをとっても、彼女の魅力だと思うよ」

しかも、今回は、彼自身の歌声もそこに彩りを添える。

「ぼくはシンガーではないけど、曲に対するアプローチは一緒だよ。歌声は大好きな楽器だし、ギターを弾くときはいつも自分がシンガーであるかのように弾いてもいるからね。今回は、ギターを弾く延長で自分も歌ってみた。ぼくの声が新たなカラーとして音に加わったと思っている」

これまで、数え切れないほどのレコーディングやライヴで快演を残してきた人だ。無理を承知で訊ねてみた、これまでのセッションで最も印象に残った3枚のアルバムをあげるとしたら、と。

「3枚だけあげるというのは、ちょっとフェアじゃないかな。でも、敢えて何人かあげるとすれば、キャノンボール・アダレー、アリサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、スタンリー・タレンタイン、ジャクソン・ファイヴ、バリー・ホワイト、クインシー・ジョーンズ、ドリームズ・カム・トゥルー、ドナルド・バード、ジェイムス・ブラウン、その他、何百もの数になるけど、ぼくにはみんな等しく大切で忘れられないアーティストだよ」

もともと、何処の楽器店にも置いてあって、値段も手頃だったからとギターを始めたらしい。そのうちに、「手と心を組み合わせて、自分の気持ちを表現するのにぴったりな楽器ということに気がついた。だから、いまではギターに感謝しているんだ」。そのギターを、10代の頃からプロとして毎日のように弾き続けて現在69才。「自分自身が完全に自由になるように解き放ち、自分が喜べるように弾くこと」をいちばん大切にしながら、「50年以上、ギターを弾くことによって、人々に、ある種の心地良さと満足感がもたらすことができたと思う。ギターを弾くことでぼく自身も、まわりの人も笑顔になること、それがいままでやってきたことのいちばんの収穫といえるかもしれないね」

昔もそうだったが、近年のこの人のギターには、一音たりとも疎かにしない、そういう真率さがいちだんと強く感じられる。そこにギターという楽器に、音楽に、そしてなによりも人間の生に対するこの人の誠意がみえる。最後に、〈ギターの神様〉と呼ばれるこの人に、ギタリストとしての優れた条件を訊いてみた。

「人として、ギタリストとして、またアーティストとして、何度も同じことを繰り返しやることを楽しめる人こそ優れていると思う。必要なのは、楽しむことだ、そして、自分の頭と心と魂に潜んでいる全てのものを使って毎日練習あるのみだよ」。こういう人だからこそ、その音楽を前にしたとき、誰もが敬意を払わずにはいられないのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月06日 12:46

更新: 2011年01月06日 12:53

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text : 天辰保文