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インタビュー

1966カルテット

非ビートルズ世代のナチュラル・ビートルズ

「天下の大誤訳ですよね、《ノルウェーの森》は」

日本における〈初代ビートルズ担当ディレクター〉、高嶋弘之は言う。

「本当は《ノルウェー製の家具》というのが正しい訳ですね。でも、ぼくは楽曲を聴いて浮かんだ北欧の森のイメージで邦題をつけちゃった。正しい訳にしていたら、村上春樹さんの小説だって、今のような形で生まれていなかったかも知れない」

そのタイトルを掲げたアルバム『ノルウェーの森』で、フレッシュな若手女性アーティスト四人によるアンサンブル、1966カルテットがデビューする。

「《フール・オン・ザ・ヒル》、これをクラシックでやってみたいとずっと思っていたんです。あの当時から」

このグループのエグゼクティブ・プロデューサーである高嶋のこの想いを実現するために集められたのは、東京音楽大学4年生であり、この春『主人公〜さだまさしクラシックス』『光の風〜ヴァイオリン・クラシックス』の二枚同時リリースでデビューしたヴァイオリンの花井悠希、京都市立芸術大学に学び、高嶋ちさ子率いる〈12人のヴァイオリニスト〉でも活躍する松浦梨沙、作曲家・ピアニストでもある実妹の林そよからとともにセッションチェリストとしても幅広く活躍し、東京藝術大学大学院修士課程で学んでいる林はるか、そして第12回日本クラシック音楽コンクール全国大会入選を果たし、東京藝術大学大学院に学んだピアノの長篠央子の4名の気鋭の演奏家だ。高嶋は彼女たちのカルテットに、ビートルズ世代の熱気の記憶と当時の青春をリスナーが共有できるようにとの思いを込めて、ビートルズの来日年である〈1966〉と名づけた。

もちろん彼女たちはビートルズ世代ではない。ビートルズを聴こうと思って聴いたことすらない。しかし普段の生活の中で、街角で、お茶の間のテレビで、知らず知らずのうちに彼女たちはビートルズに接していた。彼女たちは異口同音に語る。

「あ、これもビートルズなんだ、あれもそうなんだ、とびっくりしました」
演奏を聴くと、正確に同じわけではないが、テンポなどがどこかしらオリジナルに近い空気感を醸し出しているのがわかる。ヴァイオリンの松浦は言う。

「自分たちのオリジナリティを出そうとあれこれ考えてテイクを重ねていっても、何かこう違和感があって。で、フィットする空気が出てきたと思ったら、それは自分たちが最近聴いたビートルズのオリジナルのものに近いものを持つようになっていたんです、無意識に。あ、ナチュラルでよかったんだって気づきました」

「彼女たちの演奏を聴いているとね、ジョンやポールの声が聴こえてくる。ぼくはそう思っているんですよ」

そう言うと、高嶋は満足そうに笑っていた。

『ザ・ビートルズ・クラシックス ノルウェーの森』
11/25(木)18:30開場/19:00開演
会場:王子ホール
出演:1966カルテット
http://www.ojihall.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年11月18日 20:08

更新: 2010年11月18日 20:26

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text :磯田健一郎