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インタビュー

伊藤ゴロー

「脆いけど、煮えたぎっている感じはある」

この気持ちをざわつかせる感じ。あきらかに、良質なロック・ミュージックに出会ったときに抱く感覚だ。naomi & goroの伊藤ゴローのソロ・アルバム『Cloud Happiness』は、ビートルズ/ジョン・レノン/オーティス・レディングにオマージュを捧げた〈ロック・アルバム〉。彼自身「すごくパーソナルなアルバムだと思う」と言うとおり、ここには内省的な手触りのメロディアス・チューンが並んでいる。それにしても、この胸がジリジリ焼かれるような感覚は、彼の作品で初めて得る類いのものだ。本作に出会って気付かされた。これまでnaomi & goroを鑑賞するときはとかく細部に耳が行きがちだったってことを。

「わかりますよ。だって、普段はある意味そういうことを意識してやってるんですもん(笑)。ボサノヴァをやることはライフワークと思っているところもあるからね。そもそも僕は楽曲というもの以外に興味がないんですよ。ただ単にいい曲を作りたいってすごく単純な動機があって、そこだけでいいというか。今回はさらにその意識が強くなったんです。極端なことをいえば、アレンジとかどうでもよくて、できる限りシンプルにいきたいと。いわゆるシンプル=3コード、みたいなことではなく、自分を飾る部分を取り除いたというか。つまり自分の欲望がいっそう強まった作品と言えるわけで……年取ったのかな(笑)」

なかには18歳のころに作った歌もある(《Down In The Valley》)。ショーン・オヘイガンや高橋幸宏のサポートを受けて、ビートルズ的エレメントをたくさん散りばめられた曲も登場する(彼曰く「ビートルズはラトルズでもいいぐらい好き」)。とにかくわかるのは、ただただ素直な気持ちに従いながら身体に染み込んでいるメロディやリズムを用いて曲作りを行ったのだろうってこと。蒼い歌声も実に無防備というか、魅力的な脆さが浮かんでいる。やはりこれは〈ロック〉と形容すべき音楽だ。もし彼がポップスを目指したのなら、もっと完成度に目を向けていたのかもしれないなんて思うし。

「うん、すごく脆い。脆いけど、煮えたぎっている感じはある。で、この危うさは自分の個性だと開き直ってね。新人を見つめる目で作っていたかも。多少難はあるけど、〈らしい〉からいいんじゃない?ってプロデューサー的な自分が判断したりして。なかなかいい人材を発掘したぞ、みたいな。けっこういい曲作るじゃんって(笑)」

「いま、気持ち的に8ビートはいいもんだって感じ」という彼が、今後このスタイルをどこまで追求していくかが気になるところ。また、若いリスナーがスウィートなオレンジのような彼の〈ロック〉にどんな反応を示すのかも。

「夢は《Try A Little Tenderness》を歌ってみること」と微笑むゴローさんだが、彼流のR&Bアルバムとか作られたら、なんて想像して勝手に興奮している。

 

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月20日 16:45

更新: 2010年10月20日 16:50

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text : 桑原シロー