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インタビュー

Dang Thai Son

「ショパンは知れば知るほど難しい作曲家です」

今年のショパン生誕200年のメモリアル・イヤーにダン・タイ・ソンが5月〜6月と11月〜12月の2度来日し、オール・ショパン・プロで演奏会を行う。すでに春の来日は大成功を収め、いまは秋の公演を待つばかりだ。

「ショパン・コンクール後、これまで何度も来日公演を行ってきましたが、ショパンだけのプログラムを組んだことはありません。もちろん常にショパンはオファーを受けていますが、ショパン以外の作品も弾くことができるんだ、とみんなに伝えたかったのは事実です。別にわざとショパン以外の作品を提示しているわけではありませんよ(笑)。幅広い作品を弾きたいと考えているだけです。でも、今年は特別な年。オール・ショパン・プロを引き受けるのに最適な年だと思いました。そしてプログラムを考えるのはとても楽しく、かつ大変難しい作業でした。なぜなら、ショパンは知れば知るほど難しい作曲家であり、弾けば弾くほどその奥深さに魅せられていくからです。こんなに長く弾いているのにね」

ダン・タイ・ソンはベトナム時代、ピアニストである母親からショパンの音楽を伝授され、戦禍のなかでもショパンの作品を愛奏し、特にマズルカに魅せられた。

「マズルカはショパンの心の日記のような存在。華々しくおおらかに歌い上げる作品ではなく、そっと語りかけるように弾くべきだと思っています。旧ソ連時代、モスクワで勉強した時にも、ショパンの他の作品は楽器を豊かに鳴らすようにと指導を受けましたが、マズルカだけは自分の考えで内省的な演奏を心がけました」

1980年のショパン・コンクールの覇者となった時も自身の演奏に徹し、副賞の〈マズルカ賞〉も受賞した。そして優勝から30年経った今年、満を持してナショナル・エディションによる『マズルカ全集』をリリースした。

「春の日本公演では舞曲の要素を盛り込んだ作品を選び、秋はジョルジュ・サンドと過ごした日々に生まれた名曲の数々を演奏します。マズルカは春のほうに入れ、秋は大好きな《舟歌》とピアノ・ソナタ第3番、24の前奏曲という構成です。いずれもショパンの心身の充実が映し出された名作。それだけに技巧、表現、解釈などすべてが難しい。聴衆の心の奥深く響く演奏をするのは、本当に至難の業。どんなに練習してもさらに難しさにぶつかる。これは生涯の課題。常に勉強あるのみです」

ダン・タイ・ソンは前回に引き続き、今秋のショパン・コンクールの審査員を務める。前回は予選からブレハッチの演奏に涙し、演奏のすばらしさを絶賛していた。

「最近は鍵盤を強打する人が多いなか、ブレハッチは自然な音で勝負した。心が洗われる演奏でした。私も聴き手の心にゆったりと語りかけ、しっとりとした音色でショパンの心を表現したい。その時代の空気が伝わってくるような演奏、みんなが一瞬ショパンのサロンに集うような思いを抱く、そんな演奏ができたら本望です」

『ダン・タイ・ソン  2010年来日スケジュール(後期)』
11/21(日)神戸・川西みつなかホール
11/25(木)福島・郡山市民文化センター
11/27(土)東京・サントリーホール(共演:東京交響楽団)
11/28(日)川崎・ミューザ川崎(共演:東京交響楽団)
11/30(火)富山・入善コスモホール
12/4(土)名古屋・愛知県立芸術劇場コンサートホール
12/5(日)東京・紀尾井ホール
http://www.kajimotomusic.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月08日 14:11

更新: 2010年10月08日 14:21

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)