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インタビュー

Xavier De Maistre

人間のもつ強さから弱さまで、音楽ならすべてを表現できる

グザヴィエ・ドゥ・メストレの演奏を聴くことは、ときに際立って親密な交感であり、同時に大事件でもある。繊細さから勇壮さまでの広大な領域を揺れ動くハープの魅力に触れながら、ひとつの挑戦の意志を体感することにもなる。たとえば、この2月から3月にかけて、彼が日本で披露したアランフェス協奏曲もそうだ。ロドリーゴがサバレタの協力のもとに自編したものだが、ドゥ・メストレは原曲に立ち戻ってギターの奏法やフラメンコ的な表現を模倣するだけでなく、ハープだからこその魅力を大きく歌い上げていた。ハープの概念を刷新し続けるドゥ・メストレの冒険は、いかに技巧的に卓越していこうとも、ハープ固有の魅力を強く保持している。

「ハープのほうが色彩感を豊かに表現できると思うし、東京文化会館でも細部までよく聴こえたでしょう? 第1楽章は私にとってはもっともギターに近いと感じられる。第2楽章では息の長いフレーズをレガートで歌い、第3楽章はもっともハープ的な要素が強くなる」

前作のハイドンや、最新盤と同じく、ベルトラン・ドゥ・ビリー指揮ウィーン放送交響楽団との共演だった。

「信頼できる友人と仕事をするのは楽しい。ベルトランは当代きってのオペラ指揮者でもあるから、ソロイストをサポートするのが巧く、いろいろな試みができる」

20世紀を代表する偉才ニカノール・サバレタと、21世紀のドゥ・メストレという二人の名手の出会いは、音楽上の交感というよりも、むしろ精神的な響きあいといったほうが近い。「もちろん、私はもっと遠くへ行こうとしていますよ。時代も違うし、おそらくさらに完璧な技術をもって、先の目標に向かっていく。私は彼とは違う楽派ですが、パイオニアとしてレパートリーを拡張し、新しいアイディアを探究している点で、同じ線上にあると思っています」。実際の出会いは一度きりだった。コンクールで演奏した若きドゥ・メストレは、パリとロンドンで政治学や法律を学んでもいた。「これから音楽の道に進んでいくのか、まだ悩んでいるところでした。『すぐれた法律家は大勢いるけれど、君のようなハーピストはただ一人しかいない』とサバレタが言ってくれたことは、ハーピストになる決心するのに大きな力となりました」。1998年から首席奏者を務めるウィーン・フィルも今季で離れ、ソロ活動でさらに自由に飛翔していくという。「同じことを何十年も続けていくのは、私のタイプには合わないから」とドゥ・メストレは微笑んだ。

もし、音楽をしていなかったら、おそらく発見せずに終わった彼自身の特質もあったことだろう。「そうだな。たとえば、ビジネスマンや弁護士だったら、性格の強い面ばかりを出していかなくてはならないし、自分の弱さやセンチメンタリティをみせることはゆるされない。しかし、音楽を通じてなら、そうした要素を自ら表現して、深く突き詰めていくことができる。自分のパーソナリティーや異なる内面をいつも探求していけるのは、とても魅力的なことだよ」

コンサート情報
『メストレとウィーンの仲間たち 』

11/8(月)王子ホール
『メストレ・リサイタル「アルパ・ラティーナ」 (仮)』
11/13(土)兵庫県立芸術文化センター
11/14(日)豊田市コンサートホール大ホール
11/18(木)王子ホール
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