こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Mia Hansen-Love(映画『あの夏の子どもたち』監督)

自殺という悲劇から生まれた、生への希望に満ちた眼差し

最近、大きな社会問題になっている自殺。新聞や雑誌で死の背景について取り上げられることは多くても、残された家族の〈その後〉について触れられることは少ない。そのシリアスな問題を静かに見つめ、瑞々しい映像で描き出したのが『あの夏の子供たち』だ。監督・脚本を手掛けたのはフランス映画界の新鋭、ミア・ハンセン=ラブ。彼女は知人のプロデューサー、アンベール・バルザンの自殺から映画の構想を得た。

「私はいつも自分のなかの喪失感というか、心にぽっかり空いた空洞を埋めるために脚本を書いているんです。そして、そこに登場するのは、これまで自分が関わった人たち。彼らのキャラクターや感情を映像のなかで膨らませていくんです」

映画にはバルザンをモデルにした映画プロデューサー、グレゴワールが登場する。映画制作会社を経営しつつ、妻と3人の娘に囲まれて頼りがいのある父親としての顔も持つグレゴワールだが、会社経営に行き詰まり、突発的に自殺してしまう。そして、映画の後半では、彼の死を起点に「その後」を生きる家族たちの姿が丹念に描かれていく。それはまるで「死」という土壌から芽生えた「生」の観察日記のようだ。

「そういう風に観て頂けると嬉しいです。映画の前半ではグレゴワールに脚光を当てているのですが、後半は、妻、そして、娘たちというように彼の影になっていた家族に徐々に光が当てられていく。ある意味、二部構成のようになっているのですが、私はこうした手法が好きで、デビュー作(日本未公開作『すべてが許される』。バルザンがプロデュースすることが決まっていたが、彼の自殺によって別の制作会社に引き継がれた)も、こうしたスタイルでした。特に今回の映画で私が描きたかったのは〈何かを託す〉ということ。特に父と娘の関係にはそうしたロマンが込められているんです」

設定だけを見れば重厚なドラマを予想するが、映画を見終わった後はどこか軽やかな印象さえ与えるのは、監督が〈何かを託す〉ことを通じて、未来や人間にささやかな希望を抱いているからだろう。そして、もうひとつ、ジョナサン・リッチマン《エジプシャン・レゲエ》で幕を開けて、ドリス・デイ《ケ・セラ・セラ》で幕を閉じる音楽のセンスも秀逸だ。

「私は映画用に書かれたスコアはあまり好きじゃなくて、ちょっとエキゾチックな曲を使って映画に奥行きを与えるのが好きなんです。ジョナサン・リッチマンは大好きなミュージシャンなんですが、バルザンはエジプト映画の作品を数多く紹介した人で、偶然ではあるんですがオマージュみたいなところも少しあるんです」

「私にとって映画は何かに辿り着くための回り道」とも語ってくれたミア。映画の子供たちが辿り着く先は、きっと柔らかな光に溢れているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの夏の子どもたち』
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ 
出演:キアラ・カゼッリ/ルイ=ドー・ド・ランクザン/アリス・ド・ランクザン/エリック・エルモスニーノ/サンドリーヌ・デュマ/ドミニク・フロ他
配給:クレストインターナショナル(2009年 フランス)
◎初夏、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー
http://www.anonatsu.jp

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年05月26日 19:52

更新: 2010年05月26日 20:09

ソース: intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)

interview & text : 村尾泰郎