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インタビュー

マグナス・ヨルト

北欧から期待のピアニストが登場

スウェーデン生まれで活動拠点はデンマーク。北欧ジャズの期待の新世代アーティスト。だが、最新ライヴ盤『Someday. Live in Japan』から聴こえてくる音にはどこか古きよきジャズの佇まいがある。20〜30年代のブロードウェイにするりとタイムスリップするような洒脱さがある。ホントに北欧なの? 思わず問い返したくなるにちがいない。

誰しもが聞き覚えのあるスタンダードばかりをとりあげているが、「昔からジャム・セッションなどで演奏してきた曲ばかりを選んだ」と本人はいう。演奏していて楽しく、かつメロディの美しい曲。

「いまの作曲家はメロディの重要さを過小評価しているように思う。昔のショー・チューンには時間を超えた魅力があって、しかもとても精緻に作られているからね。曲も、歌詞も」

なかでもガーシュウィンを最愛の作曲家として挙げ、一番影響を受けたピアニストとしてモンクとアート・テイタムを挙げる俊英は、ティン・パン・アレイ流のブロードウェイ歌謡への愛着をにじませながら、ときに繊細に、ときにハードに、そしてときにユーモアたっぷりにメロディと遊んでみせる。

「ヨーロッパに伝わる言い伝えなんだけれども、結婚式で花嫁は新しいもの、古いもの、そして借りたものを身につけると幸せになれると言うんだ。前のアルバムを『Old New Borrowed Blue』と名づけたのにはそういう意味があって、ジャズっていうのも、古いものと新しいものとブルーズなどから借りてきたもので成り立っているんじゃないか、と思うんだ」

「過去、現在、未来、そしてスウィング」。マグナスは、そんな言葉で、簡潔に自分のジャズ観を集約してみせる。コール・ポーター・チューンで小粋なストライドを披露してみたかと思えば、《マイルストーン》ではゴツゴツとしたバピッシュな演奏で攻め、《A列車》では、エリントンの精妙なタッチを多彩なリズムチェンジのなかで弄んだりもする。オールドとモダンと現代とが、錯綜しながら顔を出す。なのに器用さが鼻につくといったことはまったくない。むしろ、遊びに興じれば興じるほど、ピアニストとしての無骨さが際立ってくる。マグナスの強みは、むしろここだろう。あっし、古い男ですから。と、背を向けてしまうようなシャイネスをそのプレイに感じるのは間違いだろうか。同時代のピアニストではマーカス・ロバーツとボボ・ステンソンが気になるという。なるほど、マグナス・ヨルトの「古さ」は、たしかにふたりにも共通する資質かもしれない。

すでに次回作は、ウィズ・ストリングスによるガーシュウィン集となることが決まっているという。チャーリー・パーカー、クリフォード・ブラウン、ウィントン・マルサリスのそれに並ぶようなものをつくりたい、と意気込む。ここでも男気のあるメロディをきっと堪能させてくれることだろう。

 

『Japan Live Tour 2010』

2010/5/13(木)京都ル・クラブ・ジャズ
5/14(金)横浜Dolphy
5/15(土)新宿Pit Inn
5/17(月)吉祥寺Sometime
出演:Magnus Hjorth(P)、Petter Eldh(b)、池長一美(ds)

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月28日 20:12

更新: 2010年03月28日 20:19

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 若林恵