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インタビュー

インタヴュー熊谷和徳──人生を凝縮したステージ

DVD『FRAGMENTS』は、一粒の雨が降り始めた瞬間のように、静かに始まる。真っ白な背景の前で、黒のシルエットが細やかなステップを刻む。音の嵐が降り注ぐ前の一瞬、まるでジョン・ケージの音楽を聴いているような、そんな緊張感を孕んで膨らんだ沈黙があたりを覆う。最初の一音が、そっと波紋を描くようにドロップされる。それから熊谷は二本の足と、全身の跳躍によって、自らのグルーヴを創り出してゆく。ソロでのパフォーマンスでも、ジャズ・トリオやDJクラッシュとのセッションでも、基本的にそのような緊張感は変わらない。一人のアーティストとしての熊谷和徳の求道的な側面が浮き彫りになる。全編モノクロで撮影された本作品は、熊谷の孤独な挑戦が、ストイックで内省的なエネルギーとして伝わってくる。

「ステージでは奪われるエネルギーが全然違うから、ふだんの練習に比べても負担はかかります。なんか自分の人生の一部をステージで見せているような気がするんですよね。そこで、終わってからにこにこして『おつかれー』みたいな感じは自分の中ではあまりない。自分の中で自分のステージっていうのは、自分の人生の凝縮された一時間半という気持ちがあるから、そこで本当にすべてを出しきって終わりたいなって思う」。自分の人生を舞台に凝縮するというのは、例えばオリンピックに出場するアスリートが、わずか数秒にすべてを賭ける感覚と似ているのかもしれない。

熊谷和徳の圧倒的なパフォーマンスを観て、多くの人は驚きを禁じえないのではないか。何か新しいものが生まれる空気が、熊谷のダンスからは感じられる。熊谷の地元仙台から始まった子どもたちとのタップワークショップ、様々な分野の一流アーティストたちとの交流、タップを介して表現の可能性はどこまでも広がる。こんなにもポテンシャルのある表現がまだあったのだという発見。八月にはオーケストラとの共演も決定しているという。熊谷和徳の、新しいアートとしてのタップ。その無限のポテンシャルを、ぜひ目撃して欲しい。

熊谷和徳 公演情報

『赤坂BLITZ単独LIVE』
2010/5/30  赤坂BLITZ

『レ・フレール×熊谷和徳コンサートツアー』
6/12(土)北上市文化交流センター さくらホール 大ホール(岩手/北上)
6/18(金)Bunkamura オーチャードホール(東京)
6/20(日)神戸国際会館 こくさいホール(神戸/兵庫)
6/26(土)よこすか芸術劇場(神奈川)
7/2(金)愛知県芸術劇場 大ホール(名古屋/愛知)

『KAZ TAP CLASSICAL ORCHESTRA!』
8/31(火)東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
出演:熊谷和徳&東京フィルハーモニー交響楽団
http://www.kazukumagai.net/

 

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月23日 20:31

ソース: Web Exclusive

interview & text : 山本拓