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インタビュー

高木綾子

この心地よさ、聴くたびに新しいモーツァルト

「いつも、指揮者やオーケストラのカラーにうまく自分を乗せられたらいいな、と思っているんです。一回一回が違う音楽になるのが愉しいですから」とはきはき爽やかに語る高木綾子。人気フルーティストの新盤はデビュー10周年にして初の本格的なコンチェルト録音となる『モーツァルト:フルート協奏曲集』だ。素敵な風の吹くような協奏曲2作に、単一楽章の協奏作品《アンダンテ》を併録。「何度吹いても飽きないし、聴くたびに新しく感じられる、心地よい音楽なんですよねぇ」と語る高木は昨年秋に男の子を出産、めでたくお母さんになったばかり。本盤を録音した昨夏は「おなかも大きくて皆さん気をつかってくださったんですけど、健康優良妊婦だったので全然大丈夫でしたよ!」と笑顔も朗らかだ。おなかで録音にたちあったお子さんは「今でも《アンダンテ》とか聴くと、嬉しそうにしてるんですよ(笑)」

共演は金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢。 「皆さんの音がお互いによく聴ける編成ですし、安心感のある共演でしたねぇ。聖響さんも私に合わせて歌をつくってくださって、自然体で録音できました」

そんな高木のモーツァルト、明るい音楽を深める陰翳も、実にこまやかに描きながら、自身で手がけたカデンツァも含めて「おなか一杯になるほどくどくなく(笑)薄味でもない、何度も聴きたくなるような演奏というのを意識したんですよ」とご本人が仰る通り。

モーツァルトの伝記などを読んでいると、作曲家自身はフルートにいささか距離を置いていたとも言われているけれど、この協奏曲集を聴いていると、まさかねぇと思えてしまうのが面白いところ。「当時はまだ音程が定まる楽器ではなかったので、フルートも作曲家にとってやりたいことを出来る楽器ではなかったかも知れないですけど、彼の身近には尊敬する優れた奏者がいましたから、プロフェッショナルな作品になっているんです。音楽愛好家の依頼で書かれた協奏曲ですが、おいそれと吹ける曲ではないですよ」と言いつつ、その難しさを感じさせず、自然な余裕を音楽に満たして気負いなく楽しませてくれるあたりが、デビュー10年の蓄積だろう。

本盤はエイベックスへの初登場となるが、デビュー以来9枚のアルバムを出しているコロムビアからも、ベスト盤『シランクス〜高木綾子ベスト』が登場した。ライヴ映像などを収めたDVDもセットに、ヴィヴァルディほかクラシック作品からピアソラ、モリコーネ、村松崇継まで多彩な歩みを広くおさえつつ、初登場音源(ジョビン《ジンジ》)も収録している。「デビュー時は学生、今は学校で教える立場になって演奏も変わってきたかも知れませんけど、なせばなる、という楽観主義は10年変わらないですねぇ。困難があると『何をっ!』と思う打たれ強いタイプですし」と語る高木綾子、瞳に凛とした光を宿しつつ、こぼれる笑顔も印象的だった。

『高木綾子 リサイタル』
3/7(日)ホテルフォレスタ
3/13(土)〜21(日)宮崎ミュージックキャンプ アカデミー
3/22(月・祝)福生市民会館
http://ameblo.jp/takagi-ayako/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月02日 13:04

更新: 2010年03月02日 13:19

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 山野雄大