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インタビュー

仲道郁代

2010年のショパン・イヤーに向けて、仲道郁代が久々にショパン作品の録音をリリースする。1980年代末から90年代には協奏曲を含め数多くのショパン作品を録音してきた。その後、演奏会でも常にショパンを弾き続けて、NHKでも『ピアノの詩人ショパンのミステリー』と題したドキュメンタリーでショパンの足跡を辿る番組に出演し、さらにショパンの生涯を映像とエピソードで綴る『ショパン鍵盤のミステリー』企画など、作曲家としてのショパンは絶えず関心の中心にあった。

「若い頃は、いわゆるピアノの詩人としてショパン様というイメージのまま演奏していましたが、最近は変わってきました。ロマンティックな作曲家というより、ショパンはリアリストで、自分の置かれた状況を冷静に見ながら作曲活動を行ってきた作曲家なのだろうと思うようになって来ました。さらには、ショパンの生きていた時代のプレイエルのピアノを実際に触ってみて、現代のピアノとは違う音色を知り、そこから学ぶことも非常に多かったです」

90年代初めのショパン録音以降、仲道はベートーヴェンに傾倒して、そのピアノ・ソナタの全曲演奏&録音も行ってきた。

「その過程で楽譜を読むこと、音符の見方が変わってきて、その経験も大きいですね」

今回の録音はバラード第1、第3番が新録音、それ以外は初めて録音する作品となる。特に後期の代表作《幻想ポロネーズ》は仲道がショパンの中でも最高傑作のひとつと考える作品だ。

「ショパンの後期の作品は非常に不思議な魅力があって、変な言い方ですが〈過去進行形〉みたいな雰囲気があります。特にポロネーズは祖国ポーランドのリズムを使った作品ですが、この《幻想》では、単に祖国讃歌だけではない、自分自身の挫折感とかノスタルジーとか複雑な想いがたくさん込められている作品になっています。ショパンの人生を詳しく知って、後期の作品はますます深く複雑な魅力を持つものになって来ましたね」

もちろん初期の代表作である《練習曲》や新しいジャンルを創造した《バラード》など、ショパンの代表的な作品を集めた選曲。

「ショパンの不思議のひとつは、一流のピアノ教師についていないのに、すでに10代にしてピアノの新しいテクニックを網羅するような〈練習曲集〉を書いていることです。よほどピアノに関しての天才的なひらめきがあったのでしょうね。また同時代のロマン派の作曲家たちが文学の影響下で標題付きの作品を書いていた時代に、ショパンはピアノの音の純粋性にこだわって、音そのもので表現をしようとしていたことも重要ですね。非常に社交的で冗談も上手い人だったらしいけれど、作品に関しては孤高を貫いた人ですね」

仲道の新録音の中にはそんな新しいショパン像がたくさん発見できるはずだ。


『仲道郁代ピアノ・リサイタル』
2/28(日)14:00しらかわホール
3/7(日) 15:00 東京芸術劇場大ホール
3/13 (土) 18:00 フィリアホール
3/14(日)15:00 下関市民会館大ホール
3/20(土)15:00文京シビックシビックホール 大ホール
3/21(日)19:00大牟田文化会館大ホール、他
http://www.ikuyo-nakamichi.com

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年02月25日 15:59

更新: 2010年02月25日 16:13

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

INTERVEW&TEXT : 片桐卓也