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インタビュー

冨田ラボ

12月初旬、ついに冨田ラボ新作完成! という絶好のタイミングでのインタヴューに臨むはずが、当日、まさかの発売日延期のお知らせが(涙)。なので、制作もいよいよ大詰め!という時にお時間を頂き、冨田ラボ自宅スタジオにて急遽、完成前の制作現場突入レポートという形でお話を伺いました。

 

冨田恵一自身による仮歌がおさめられていたニューアルバムのラフ・ミックスCDの2曲目。プレスリリースにはこれから佐野元春の歌が収録される予定とある。スタジオに入ると、「そっか、ごめんね。佐野さんの歌まだ聴いてないんだよね。じゃあせっかくだから聴いてよ」と、まさにラボの中枢を担うマックとつながる、音の良いモニター・スピーカーから、まだミックス途中の生々しい冨田のトラック、そして艶めいた佐野元春の声が聴こえてきた。


──冨田さんの仮歌の時は、佐野さんが歌う姿を想像出来ませんでした。が、この仕上がり、完璧な人選と納得しました。曲を書いている時から、佐野さんを想定していましたか?

「曲を作る時は全然。いつも通り、歌手は全く想定しないで作ったんだよ。この曲は《ペドロ〜消防士と潜水夫》って言うんだけど、僕、ペドロ・アズナールが好きなんだ。あいつさ、腑抜けて歪んだギターミュージックみたいなのやるじゃない(笑)。彼なりのコンテンポラリーっていうことなのかな? でもアメリカ人でもイギリス人でもないからさ、ロック・スピリッツにちょっと欠けるんだよね(笑)。なんだけど、歪んだクランチ系のギターでハーモニーがちょっと変だったり、メロディがキレイだったり、そういうのが面白くてさ。で、その〈ロック魂〉っていう面では彼より僕のがあるだろうっていうのも加味して(笑)、そういう曲作ろうと思って作った。その後、これ誰に歌ってもらおうかなって。なかなか歌う人を決められなくて、スタッフと色々相談したりして。そこで佐野さん。佐野さんってウォームな部分とパンキッシュな部分を併せ持っていて、その感覚とパンキッシュな部分が合うなと思って打診した」

──冨田さんの音楽を断片的にしか知らない読者に向けての質問を。今までのキャリアを教えていただけますか? プロフィールには大学在学中よりギタリストとしてプロのキャリア開始とありますが、ギターはいつ頃から?

「ギターは中3から。全然後追いの世代なんですけど、ビートルズがきっかけ。中学の頃にキャピトルのアメリカ盤の12枚組くらいのボックス・セットを買って、カッコイイなと。小学校時代にピアノとエレクトーンはやっていて、音はとれたからアコギを買って《ブラックバード》とかやるとすぐ弾けて。それがきっかけですね。その辺はすごいベタです。ビートルズ行ってハードロックに行って、ディープ・パープル。その後はもうフュージョン行っちゃうんですよね。よりテクニカルなものは?っていう探求が始まってさ。それが77年辺り、高校時代くらい。アル・ディ・メオラっていう人は世界一速いんじゃないかとか。聴いてみると確かに速いんだけど、弾いてみると「なんだすぐ弾けんじゃん」って思ってね。モチロン適当なんだけど(笑)。フュージョンへのきっかけはギターが上手くなりたいっていうのが最初。でもそういうジャズ/フュージョンに行ったときに、ギター云々を別にして、ハーモニーとか構造が全然違うな、カッコイイっていうことを感じた。ジャジーなコードとか、8ビートではなくて16だよね。そこに凄いハマっちゃった感じですかね。そこから今までが繋がっているような気がする」

──その後〈作曲〉という風に気持ちがシフトするのは?

「それは、大学生の時の多重録音、宅録って部分ですね。当時はバンドに指示するのが得意ではなくて。だけど多重録音ってことになると、全てのパートが自分の思い通りになるわけじゃない? それは面白いと思って、プレイするよりも、サウンドを構築して、「ベースラインがこうでコードがこうなって、ドラムがこうなって、ここで誰が盛り上がる」とかそういうのを、家でやるのが好きになりましたね。だから宅録からかな……今も宅録だけどね(笑)」

──その宅録にのめり込んでいって、キリンジと出逢う?

「当時のナチュラル・ファンデーションの柴田さんっていうレーベル・プロデューサーが『プロデュースをお願いしたいヤツらがいる』ということでキリンジのデモ・テープを聞かせてもらったんですよ。音楽は凄い面白いっていうか、好みに合って。70年代の演奏内容とか質感とかをシュミレーションした何かを作りたいなと思ってた頃にちょうどのタイミングで。曲と同時に、僕、(堀込)泰行君の声が好きだなあって思ったんですね。で事務所で会って、色々話してお互いに了承して始まったっていう感じ」

──それから、キリンジのインディーズ時代~メジャー作を経て、キリンジとのコラボレーション曲も含む、冨田ラボの一作目『シップ・ビルディング』のリリース。1作目はキリンジと冨田恵一で作り上げた、新しいJ-POPのサウンドっていうのを、キリンジを含めた新人~ベテランまでの色んなアーティストで試して、2作目はそこに、冨田恵一の70~80年代位のバックグラウンドを強めた作品かと思います

「そうですね。確かに2枚目は若干80’sも入ってる。80年代は全般的に、音楽的に豊かな時代ではなかったと思うんだけど、でも、中には良かったものもあった。で、それは自分がやっていいだろうっていう思いがあったな。70年代のものっていうのは特に中〜後半が一番豊かだったと思っていて、今も大好きだけど、1作目でその辺はある程度満足したっていう感覚があってね。あとはセレクトするシンガーに関しても、2枚目のときはソウルヘッドさんとかヨシカさんとかいわゆるR&Bシーンの人たちをああいうオケで歌わせるっていうのをやりたかった部分もある。サウンドがいわゆるそのジャンルのマナーにのっとったサウンドでしか聴けないことが、僕は凄いもったいない気がしていて」

──そのチャレンジな2枚目を経て3枚目。まだ未完成ではありますが、僕はJ-POPとしての普遍性というか、実験性よりひとつ上のポップ・アルバムとしての完成度があると思いました。手応えはありますか?

「んー……まだできてないからよくわかんないんですけど(笑)。絶対いいに決まってる。という手応えはあるんですよね。早く全部できて、早く全部並べたいなって思う感じは凄いある。今回は……なんだろうな……、んー……、3枚目って感じかな(笑)」

前述の佐野元春を始め、吉田美奈子、安藤裕子、キリンジ、秦基博、一十三十一、CHEMISTRYと豪華ヴォーカリスト陣と共に臨む、冨田ラボ4年ぶりのアルバム。筆者は仮ミックスの段階で既に完成度の高さに圧倒されていたが、「コレの10倍は良くなる」とココからの制作にも意気込む冨田氏に職人を見ました。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年01月31日 15:00

更新: 2010年02月07日 20:09

ソース: intoxicate vol.83 (2009年12月20日発行)

interview & text : 押塚岳大(タワーレコード本社)

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