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インタビュー

菅野よう子



『ごちそうさん』―食×音楽=毎日の小さな奇跡

菅野よう子_A

『攻殻機動隊 S.A.C.』『カウボーイビバップ』等のサウンドトラックを手がけ、NHK東日本大震災プロジェクトのテーマソング「花は咲く」など、多彩な活動を見せる作曲家菅野よう子。最新作のテーマは「食」である。クールなジャズで独自の世界を表現して高い評価を受けた彼女が、今回はNHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』のサウンドトラックを手がけている。

菅野は朝の連続ドラマについて次のように語る。「例えば病院や介護施設で、朝ご飯の合図、時計代わりのような存在になっているのを見ました。決まった時間の食卓とは、すなわち生活の健全さを表すものだなと」

「食卓」「食べること」に焦点を当てたこのドラマの音楽を作るにあたり、菅野は最大限「食」の持つインスピレーションを利用する。

「もともと音(音楽)を舌触り肌触り、背骨で聴くなど、体感として捉えているところがありました。実際に食べるなどして、五感すべてで感じる豊かさは、他から得る情報とは比較になりません。まず、実際に撮影現場にお邪魔して『出演料理』をいただきました。他にも、参考になるだろうと連れていっていただいた定食屋さんの、炊き込みご飯定食のたたずまい、キャストの方たちの動きのテンポなどから、多くの影響を受けています」

本ドラマに流れる菅野の音楽はキャストたちの躍動感や悪戦苦闘の日々に伴走している。そのテンポの良さやポジティヴなエネルギーは私たちにも直接伝わってくる。

菅野は、これまでほとんどの曲を「演奏者なり歌い手を実際に思い浮かべて」作曲してきた。今回は、社交界を華やかに彩るウィーン・オペラ舞踏会管弦楽団が演奏を担当。その「音楽を楽しみ人生を楽しむという哲学」に魅了され、「彼らとなら『ごちそうさん』の世界をチャーミングに表現出来ると思った」と言う。

演奏者たちが持ち込むウィーンの空気と、主人公が嫁ぎ先の大阪で四苦八苦する様子は、菅野が音楽に潜ませた隠し味によって、不思議な融合を見せる。表題作「ゴチソウノォト」では、「一流のシェフの話ではなく、普通のおうちの、普通の人生の音色にしたいから」とウィーンの楽器屋の片隅にあった100年前のスタインウェイのアップライトを、敢えて調子はずれなホンキートンクピアノとして使う。

「病気のとき、落ち込んだとき、食欲はなくなる。おいしそうと感じることは実は幸せなこと。当たり前のことが幸せ、ごく普通のことが奇跡。毎日は奇跡の連なり。」毎朝、菅野の音楽に彩られ、日常が小さな奇跡の舞台であることに、私たちは気づくことができる。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月16日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text:山本拓