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インタビュー

坪口昌恭

自身の二面性を行き来する、TZBの新作

DCPRGや菊地成孔ダブ・セプテットでも活躍する坪口昌恭のリーダー・ユニット、東京ザヴィヌルバッハの新作『AFRODITA』は、4人編成での録音だった前作『Sweet Metallic』から一転、坪口がすべての作曲と演奏をひとりで手掛けている。自動変奏シーケンスソフト“M”を使ったランダム感に満ちたリズムは健在だが、新作は彼の鍵盤奏者としての個性がより前面に表出。フェンダー・ローズをメインに使用し、ハービー・ハンコックにも通じる、ポリリズミックかつ甘くメロウなプレイを聴かせてくれる。盟友・菊地成孔のサックスは今回は不在だが、ストイックに音数を絞った音像はクールで透徹した魅力を放っている。

「2010年に『Abyssinian』というピアノ・ソロ・アルバムを出して、それと同時期に東京ザヴィヌルバッハでもソロでライヴをやったんですが、その時の、インタープレイはないけど責任はある感じが心地良かった。ソロだとフットワークが軽いからNYでもライヴをやって、ひとりで演奏することにも段々慣れてきまして。そうした活動の発展形として新作ができましたね。あと、クラシックを改めて習ったこともあって、ピアノをより正しく弾きたかった。ひとつの楽器に集中したほうが説得力が増すというのもありましたし」(坪口)

ヴォイス・サンプルを随所に用いたサウンドはヒップホップ的なフィーリングも滲ませるし、クリアでハイファイなビートの質感はワープ・レコーズから出ていても不思議ではないと想わせる。フェンダー・ローズに様々なエフェクトをかけて異化効果を狙っているのも耳を惹く。坪口自身が「レコード屋ではロバート・グラスパーのリミックス盤やフライング・ロータスの隣において欲しい」と言うのも納得できる。

「喋り方はジャズなんだけど、音響的にはクラブで大音量で聴くと気持ちいい、そういう音楽だと思いますね。アンダーワールドみたいに、ドラムがビシっと耳の近くで鳴っているようなサウンドが好きなんですよ。だから、クラブ系のイヴェントにDJみたいなノリで呼んで欲しいけど、実際に出たらラップトップで音を流しながら一生懸命をピアノを弾いていると思う。逆にジャズとして聴くとすごく音を作りこんでるし、そこはコウモリ(獣か鳥か?)みたいな感じかもしれないですね」

ビート・ミュージックとしての強度が増し、坪口のピアニストとしての成熟ぶりも感じられる『AFRODITA』。音響的配慮に富みながらも、ピアニストとしてのミュージシャンシップの高さも実感させるアルバムである。

LIVE  INFORMATION
12/22(土)和光大学ポプリホール鶴川(菊地成孔ダブ・セプテット)
12/26(水)関内Jazz is(類家心平&坪口昌恭)

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年12月19日 12:29

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

取材・文 土佐有明