こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

RUSTIE 『Glass Swords』



Rustie_A



「アルバムの制作については、これといってはっきりとした起点と終点がなかった。自然にだんだん完成へと向かっていった感覚で、自分が聴きたいものを作るという以外には、明確な意図があったわけじゃないんだ。世界でもっとも影響力の強いエレクトロニック・レーベルの一つであるワープからアルバムを出すという機会そのものが最高のモチヴェーションだったね。時間はかかったけど、このチャンスを無駄にするわけにはいかないって思ってた」。

昨年のEP『Sunburst』でビート狂の絶賛を浴びたラスティが、いよいよフル・アルバム『Glass Swords』を完成させた。「凄く刺激をくれる」友人だというハドソン・モホークと並んで、グラスゴーから現れたこの偉才には注目しておく必要がある。

「実は1年半くらい前からロンドンに住んでるんだよ、海外に行くのに便利だからね(笑)。もちろんずっとグラスゴーで育ったから、地元の音楽とライフスタイルは俺の音楽に素晴らしい影響を与えてくれたと思うよ。音楽はずっと大好きで10歳からギターを弾いてたし、ティーンになるとヒップホップのカセットをかけたり、親のターンテーブルをスクラッチしたりしてた。プロディジーからニルヴァーナ、ウータン・クラン、マイケル・ジャクソンまで幅広くいろいろ聴いてたよ」。

15歳からDJを始めたという彼だが、20歳を過ぎるまでは自分でビートを作るという選択肢に思い至らなかったという。

「兄貴が海賊版のFruityLoops(音楽製作ソフト)を手に入れたのがきっかけかな。テクニック面の知識がなくても自分の音楽を作れるんだって気付いたんだ」。

友人とテクノ~エレクトロニカを作っていた時期を経て、2007年にリリースしたEP『Jagz The Smack』を発端にラスティの名は脚光を浴びる。以降も“Zig Zag”などの楽曲が話題となり、ボーズ・オブ・カナダやプレフューズ73の大ファンだった彼は「断る理由なんかない」とワープのオファーを受け、今回のリリースに至ったわけだ。ただ、3年ほどの歳月を費やして制作に取り組んできた彼には、作業を終わらせること自体が難しかったという。

「向上しようとすればするほど自分のレヴェルは高まってるって思うからね。だから、いちばん大きなチャレンジは、一つ一つのトラックの完成を見極めることだった。俺はいつまでも手を加えようとしてしまうんだ。でもたいていは最初のほうに浮かんだアイデアが魅力的なマジックを持っていて、後になればなるほど、結局それを失ってしまう。直感的な部分と洗練していく作業のバランスを見極めるのが難しかったな」。

こうして書くと神経質なキャラクターの神経質な作品をイメージする人もいるだろうが、『Glass Swords』にある種の偏執的な緻密さはない。彼が提供するのはダイナミックで胸が躍るほどの壮麗な構築美だ。不思議な開放感は多くのビート作品に積もりがちな内向性(それが悪いわけではない)と真逆のサウンド志向を示すものだろう。

「周りの人は俺のことを大人しくてシャイだっていうんだ。でもそれは違うと思うんだよ。ただ人がよくするような、他愛もない話ってのに興味を持てないんだよ。最高にバカな話か、人生の意義深さを語るぐらいの話しか好きじゃないんだ」。

まあ、やはり少し変わった人かもしれないが……そんな0か100かのハッキリした性格は彼の作る楽曲の痛快さにも通じるものだ。表題曲や“Flash Back”“Ice Tunnels”“Crystal Echo”のような曲名はドラッギーな比喩でも何でもない。煌びやかなシンセと人懐っこいエフェクト・ヴォイス(「俺と俺の彼女がヴォーカルを担当したんだ。歌はそんなに得意じゃないからさ」)で飾られた凶暴なビートは、本当にそのままキラキラした結晶や眩しい光のような、多幸感と呼ぶにはあまりにもピュアな恍惚感をつれてくる。静動を行き交う楽曲の展開もドラマティックなうえに、アルバム全体も心地良いひとつの流れを表現するかのようだ。

「まさにその通りだね。トラックをランダム収録したものでなく、アルバム全体が綺麗な流れを持つように細心の注意を払った。個々の楽曲も美しさとおもしろさを兼ね備えたもの、聴いていて嬉しくなるようなものにしたいって気持ちがあったんだ」。

トランスを豪快にスクリューしたような手法や、フュージョン的な洒脱さ、ブラコンを思わせるスムースネスなどもあってやたら饒舌な作品ではあるのだが、まずは本人も強調するように、このメチャクチャ楽しいサウンドで気持ち良くなってほしい。すこぶる獰猛なのに、本当になぜかニコニコしてしまうほどヤバいんです。



ラスティ


グラスゴー出身のクリエイター。本名ラッセル・ホワイト。2005年にマーティン・パットンと組んだヴォルタイックで『EP1』をリリースし、並行してソロでも楽曲制作を進めていく。2007年にスタッフからEP『Jagz The Smack』を発表。翌年にワイヤーブロックからリリースした“Zig-Zag”、ジョーカーと共作した“Play Doe”などを通じて脚光を浴びる。2009年にワープと契約してコンピ『2010』に“Inside Pikachu's Cunt”を提供し、翌年のEP『Sunburst』が幅広い支持を獲得。一方では、ゾンビーやモードセレクター、クルッカーズ、ニッキー・ミナージュらのリミックスでも高い評価を得ている。10月1日にファースト・フル・アルバム『Glass Swords』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月20日 21:00

更新: 2011年10月20日 21:00

ソース: bounce336号 (2011年9月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

関連リンク