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インタビュー

大野雄二

ルパンとジャズと大野雄二の危険な関係
──最新アルバム『Lupin The Third〜the Last job』を語る

《ルパン三世のテーマ》の作曲者として広い世代に認知されながら、日テレ系の『大追跡』や『24時間テレビ愛は地球を救う』(祝!初CD化!!)、アニメ『キャプテン・フューチャー』、『マリン・エキスプレス』、角川映画『犬神家の一族』『人間の証明』、そして今や日曜日の朝の定番名旋律《小さな旅》まで、CM、ドラマ、バラエティ、映画に常にオリジナリティと斬新さを持って独自の音楽を提供してきた大野雄二は日本の音楽シーンの中では類を見ない才気あふれる作編曲家だ。と同時に本業がジャズ・ピアニストだったということもあり、最近ではYuji Ohno & Lupintic Fiveの名義でライヴ等でも大活躍中。そのLupintic Fiveの最新アルバムが『Lupin The Third ~the Last Job~』。

「基本的にはルパンのTVスペシャルのサントラ盤になるんですよ。でも劇伴の音楽とは別に録ってアルバムとしてちゃんと聴ける、そういうものになっています。実はこの10年ぐらいずっとそうしてきたんです。今回はウィズ・フレンズという名前でブラスやストリングスの入った豪華なアルバムを作ろうと。で、ルパンの中で有名な曲はすべて入れてあります。そういう意味ではLupintic Fiveのこれまでの作品としては異色な一作ですね。で、今回エンドテーマは中納良恵さん(EGO-WRAPPIN’)に歌ってもらいました」

ゲスト参加のメンバーには中川昌三(fl)、中川英二郎(tb)、数原晋(tp)、石崎忍(bs)ら名プレイヤーが名を連ね、曲の中でもメンバーのソロ・スペースが多く、もはやサントラではなく、ジャズ・アルバムといっていい内容になっている。

「僕自身は元々はジャズ・ミュージシャンなので、僕が好きな50年代のハードバップから60年代の新主流派の寸前のジャズや、あるいはジャズ・ロック、要はフュージョンに行く前のCTI的な世界がベースになっているんです。リズムが4ビートだけでなくラテン・ビートもあり、エレクトリック・ギターも入ってフュージョンぽさを出しています」

《ルパン三世のテーマ》にはたくさんのヴァージョンがあるが今回は最新の2010年ヴァージョン。ハチロク系のグルーヴィーなリズムと中間部の4ビートの絶妙な対比が見事だ。

「30数年前にルパンの曲を依頼された時に話し合っていたのは、やれルパンだから、アニメだからといってあまり子供向けにはしたくないということ。であればインストでもいいわけですよね。エンドテーマもアニメ専門の人ではないシンガーの人に歌ってもらったり。当時アニメというとレコード会社の学芸部ってところから発売になるんですが、僕は〈洋楽部〉から出したいという希望があって。だからアニメなのに英語表記が多かったりしたんですよね」

その《ルパン三世のテーマ》が誕生する4〜5年前の70年代初め、大野雄二はジャズピアニストからCM音楽等の作曲家へと、劇的な転身を図った。

「当時は海外のジャズのレベルに追いつけ、追い越せ状態のテクニック至上主義で、ちょっと古いスタイルで演奏すると、マンネリだとかいわれたりする風潮がいやでした。それで決断してジャズの世界から両足とも抜いて、ポップスの世界へ飛び込んだんです。でもビートルズもろくに聴いたことがないまま、CMの仕事をし始めちゃったので、ありとあらゆる音楽を全方位的に聴きましたよ。青山のパイド・パイパー・ハウスや原宿のメロディハウスみたいなレコード屋で新しいものを全部買って。テクニック重視ではないフュージョンでラムゼイ・ルイスが好きだったのでそのアレンジャーのチャールズ・ステップニー、リチャード・エヴァンスが凄い、なんてことにも気づきましたし、もちろんクインシー、そして意外かもしれないですがデイヴ・グルーシンにも影響は受けています。そういったものを吸収したあとにルパンの音楽の話が来たわけなので、試したい材料は自分の中にはいっぱいあったんです。そもそも無国籍的なルパンの映像にはどんな音楽をつけてもいいというところもよかったんですね」

大野雄二流作曲法は、まずは楽器を使わず、口から出てくるものを待つという。コード進行から作ると作業は早いが、心に沁みるメロディはそういう作り方では出来ないのだそうだ。

「4小節でも浮かんできたらあとはどんどん出てくる。まずは出だしが重要ですよ。サビなんてものは出だしが出来てくれば、プロの作家であれば、こういう風ならこういう感じになるものがついてくる、なんて選択肢が狭まってくるものなんです。30年~40年も曲を書き続けていくには、絶対に何か曲を作り出せる方法論を持っていないと難しいということですね」

そんな作編曲のキャリアと実績が華々しいのは周知の事実だが、Lupintic Five等で再びジャズ・ピアニストとしても活動を本格的に再開した。

「自分のことをピアニストとしては褒められたものではないと思っています。25年間いったんピアニストはやめていて作編曲の仕事をメインにしていたわけですから。でもある時、昔の仲間に誘われて弾いてしまったのが運のつき。その時思ったのはレコーディングの際、スタジオで弾いているのと違って生は間違おうが、何しようがその場で弾いてしまったら終わりなんですよね。それが面白くてね。でも20年以上やっていなかった人が今いきなり始めたからって簡単に元に戻るはずはないんですよ。だから長年作曲やアレンジをやってきたという立場のピアニストであり、多分通常のピアニストとは違う弾き方なんですね。ピアニストの弾くピアノじゃないというか」

ルパンがあるところに大野雄二、大野雄二があるところにルパン。この関係はまだまだ続きそうだが新しい方向性が見えてくる予感も。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年02月26日 18:56

更新: 2010年02月26日 19:05

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 馬場雅之(タワーレコード本社)