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インタビュー

テリー・ギリアム

テリー・ギリアム監督インタヴュー「トム・ウェイツは、『君が望むなら僕はやるよ』と脚本を見る前に言ってくれた」

主演俳優ヒース・レジャーの突然の死を乗り越え、『Dr.パルナサスの鏡』を完成させたテリー・ギリアム。今までにも、ドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラマンチャ』で描かれていたように、映画製作の困難さに何度も直面していたギリアムだが、主演俳優の死をどう克服したのか。

「ヒースなしでどのように映画を完成できるのか見当もつかず、これで終わりだなと思ったよ。しかし、幸い私はいい人たちばかりに囲まれていて、怠けてないでヒースのためにも映画を完成させるべきだと言ってくれ、私はそれに従ったわけだ。長い間解決策を話し合ったが、代役を1人だけ立てることはヒースに対して尊敬を欠くし、うまく行くはずもない。けれど、映画の中で、ヒースは魔法の鏡を3回、通り抜ける。ならば、この役を3人の俳優にやってもらったらどうか?その方が面白そうだし、驚きも大きい。そこから友達、それもヒースを愛し、親しくしていた俳優に電話をかけ始めた。まず、ヒースととても親しかったジョニー・デップに連絡するとすぐにOKしてくれた。そしてジュード・ロウ、コリン・ファレルも協力してくれることに決まったんだ」

この映画の冒頭には「ヒースと彼を愛した友人たちによる映画」という一文が出てくる。ギリアムの、自分だけで完成したわけではないという気持ちの表れだろう。

「ジョニー、ジュード、コリンは基本的に無償で出演してくれた。彼らの分のギャラは、ヒースの娘マチルダにあげることにしたんだ。滅多にないことだけれど、この映画に携わった全員が、俳優陣もクルーも含め、ヒースのために映画を完成させたいという強い意志を持っていた。全員が長い時間、懸命に働き、おかげで何とか完成にこぎつけることが出来たんだ。この映画を推し進めたのは、みんなのヒースに対する愛情なんだよ」

映画の中では、Dr.パルナサスの愛が娘の命を救うのだが、ギリアムをはじめヒースへの愛がこの映画そのものを救ったのだろう。

「ヒースはほとんど完璧だったね。ハンサムで、女性にもてて、頭がよく、芝居ができる。彼が現場に入ってくると、それだけでパーっと空気が華やいで、みんなが元気になるような存在だった。同時に、とても老成したようなところがあった。彼は非常に若くして亡くなったけれど、なぜか50歳くらいで亡くなったような印象もあるんだ。この映画を観ると、ヒースが非常にコメディの才能があるのがわかる。本当に素晴らしい人物で、俳優だったのに。とんでもなく大きなものを失ったんだ。現場でのヒースはあまりに元気すぎて、僕のほうがついていけなかったほどさ(笑)。同じシーンを何度か撮っても、いくつもプランを持っていて、飽きることがなかったね。ヒースはこの映画をとても楽しんでいて、アドリブを連発していた。私は普通、あんなにたくさんのアドリブは認めないんだけど、とにかく素晴らしかったからね。みんなが彼につられて、どんどん良くなっていった。もっとも、あまりエネルギーがありすぎて、周りはクタクタになりそうなほどだったよ。彼が帰ると、みんなホッとしたりしてね(笑)」

とかくヒースとばかりに注目が行ってしまいがちだが、ギリアムの相変わらず想像を超えたアイディアの洪水はもちろん、共演者たちも素晴らしい。永遠の命を持つDr.パルナサスを演じるのは名優クリストファー・プラマー、そして彼と取引をする悪魔を演じるのはシンガーのトム・ウェイツだ。悪魔の声を持つ男といえば、確かにこの人しかいない!

「ウェイツのことは僕も大好きだ。彼は素晴らしいと思うね。誰が悪魔を演じるか、悪魔をどう書くのかを考え始めた時、トムの声が聞こえ、彼のクセが目に浮かんだんだ。それにトムは面白いやつなんだよ。じつは声をかけようとしたときに、彼のほうから『僕のための役は何かないのかい?』と聞いてきた。そこで『いい役がある』と言うと、彼は『やるよ』と二つ返事だったよ。脚本をまったく見てもいないし、気にもしていなかった。彼は『君が望むなら僕はやるよ』と言ってくれた。おかげで、とても楽しい映画になったよ。みんなが僕を信頼してくれて、参加してくれたんだ」

ちなみに、このインタヴューは本作のプレミアが開催されたカンヌ映画祭期間中に行ったが、映画祭というものをギリアムはこうとらえている。

「私はここでは、ただのセールスマンなんだよ(笑)。面白いアイディアを売ってるんだ。映画祭というのは、実際そういうものだと思うんだ。大勢の人が集まる場で、こんな面白い映画がありますよ、って売り込むわけだからフィルムメイカーとはいえ、セールスマンなんだ」

現在、長年の懸案だった『ドン・キホーテを殺した男』の映画化に再び取り組んでいるというギリアム。今度こそは製作に漕ぎつけられそうだということで、ぜひとも完成させてほしい。

映画『Dr.パルナサスの鏡 』

監督:テリー・ギリアム『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』『ブラザーズ・グリム』 出演:ヒース・レジャー/クリストファー・プラマー/リリー・コール/ヴァーン・トロイヤー/アンドリュー・ガーフィールド/トム・ウェイツ/ジョニー・デップ/ジュード・ロウ/コリン・ファレル配給:ショウゲート(イギリス・カナダ 124分)
◎2010年1月23日(土)〜、TOHOシネマズ 有楽座ほかにて全国ロードショー ©2009 Imaginarium Films, Inc. All Rights Reserved. ©2009 Parnassus Productions Inc. All Rights Reserved.
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カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年01月08日 19:34

更新: 2010年01月17日 18:35

ソース: intoxicate vol.83 (2009年12月20日発行)

interview&text:石津文子