何よりも素晴らしいのは一撃必殺のアルバム・タイトルである。そう、ここにすべてが込められていると思う。アフリカの大地を飛び立ったグルーヴはコルトレーンだのスライだのマイルスだのバンバーターだのサン・ラーだのとあれこれいろんな変遷を経て、ふたたびアフリカに戻ってきました、しかもスタイリスティックに。という勝手な妄想を抱かせてくれるだけで、このアルバムはすでに大成功なのだ。前作『Cool Cluster』を聴いた時に感じたのは、奇妙な居心地悪さ、そしてマゾヒスティックな心地良さだった。いったいどこに重心があり、どこに身体を預ければいいのかわからないグニョグニョのナマコのようなサウンド、だけど確かにある一定のグルーヴに貫かれており、モロッコのスーフィー音楽やマリのバラフォン合奏にも似た陶酔感がある。結果、ああやっぱり俺はモード・ミュージックが好きなんだな、ヴィヴァ・アフリカ!と思い知らされたわけである。この新作では、なんとアメリカン・クラーヴェ系の奇術パーカッショニスト、オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスが全面参加しているため、前作ほど〈M〉特有のベタな電脳感はない。いや、さらに高次元の電脳感が誕生していると言うべきか。前作が、予期できないマシーンの動きに身をゆだね、マシーンの気持ちと一体化した、一種のサイボーグ・ファンクだったとすれば、今作は、マシーンの気持ちさえも手なずけた、まさにヴードゥー的世界だな。
bounce (C)松山 晋也
タワーレコード(2003年4月号掲載 (P86))
ミニマルとファンク、一見、相反すると思われているような要素だけど、そんなことはない。エレクトロにしろダブにしろテクノにしろ、結局のところ、この両者の結びつきを発見できたものによって導かれた音楽だ。ミニマルで端正なエレクトロニカにだってファンクは注入されていて、それをふっと感じられる瞬間が快楽を与えるのだけど、でも、最近のエレクトロニカは、ちょっとファンクの注入を忘れてしまったのかも、と思う。あるいは、オーガニックでダイナミックな生のグルーヴを活かしたクラブ・トラックは、丁寧で洒落ているけど、時に引き際をわきまえたミニマルな潔さを欲したくもなる。そんな気分に合致したのが、坪口昌恭と菊地成孔のTOKYO ZAWINUL BACHだった。彼らは、シーケンス・ソフトとしてはヴィンテージものの〈M〉を引っぱり出してきて、それをベースとドラムに当てた。要は、ミニマリスト御用達のソフトをファンクに使おうと試み、ミニマルとファンクの結びつきをふたたび発見してみせたのだ。前作『Cool Cluster』は、その試みの詳細にして、多少生真面目な報告だったのだけど、本作は、そこから大きく浮上した応用編と言おうか、良い意味で余裕と洒脱を感じさせてくれる。それには、キップ・ハンラハンのバンドでお馴染みのドラマー、オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスが導き入れた要素も大きいのだと思う。あらゆる意味で絶妙なバランスを成り立たせることに成功したアルバムだ。
bounce (C)原 雅明
タワーレコード(2003年4月号掲載 (P86))