1999年に解散したザ・ヴァーヴのフロントマン、リチャード・アシュクロフトのセカンド・ソロ・アルバム。ブライアン・ウィルソンが参加、リチャード本人も「心から満足している」と語る充実作。 (C)RS
JMD(2019/02/14)
絶妙なバランス感覚。時代の空気を読みとり、流行を理解し、それだけでなく過去に残されたものも熟知している。この微妙なバランス感覚を持ち得たアーティストだけがその時代のサウンドトラックを作ることができる。いまやイギリスでは、ギャラガー兄弟やトム・ヨークよりもカリスマ的人気を誇るリチャード・アシュクロフトも、そんなバランス感覚が素晴らしく安定しているアーティストだと思う。ヴァーヴ人気絶頂期の解散から3年半後に発表された全英No.1ソロ・アルバム『Alone With Everybody』。それから2年を経て、リチャードは愛と痛みと希望を詰めこんだセカンド・アルバム『Human Conditions』を届けてくれた。〈人の置かれているさまざまな状況〉というアルバム・タイトルからもわかるように、人間にはその数だけさまざまなシチュエーションがあり、さまざまなドラマがある。リチャードはそんな状況のなかで生きている人たちに〈Bitter〉で〈Sweet〉な声を捧げてくれる。ファースト・シングルの“Check The Meaning”では、もはやトレードマークとでもいうべき愛のストリングスで全編を優しく包みこみ、情報ファシズムに警鐘を鳴らす。そして、愛について再確認するかのようにアコースティック・ギターを響かせる穏やかなムードは前作と同じ。ホルンやハープで彩られた楽園の歌“Nature Is Low”には、タルヴィン・シンやなんと御大ブライアン・ウィルソンまでもが参加。今を生きる人々の心のサウンドトラックが誕生だ。
bounce (C)米田貴弘
タワーレコード(2002年11月号掲載 (P84))
素晴らしい功績を残した人に仕方なく付いてしまう〈ex(元)〉のマークを外してあげるタイミングはそう容易ではない。とか言いつつ、実は簡単だったりするのだけど。仮にいまストーンズが解散したとして、ミック・ジャガーの活動を〈ex〉を用いずに語るのってたいへん困りません? でもそれが、キース・リチャーズの場合はできる気がする。その根拠はなんだ?と突き付けられるとたいへん困る。言わなきゃよかった!そんなこと。まあこういう問題って、主観的なところに拠るのでしょうね。と、身も蓋もない呟きを漏らしつつ、リチャード・アシュクロフトのこのセカンド・アルバム『Human Conditions』を聴いて、〈現在〉をいかなる手段でもって凝縮せしめ、無駄のない方法で描き出すかによって、例のものをキレイに剥がせる人のケースを知る。「ストイックな音をめざした」という今作において、随所に揺らめくストリングスの妙味(ウィル・マローンが担当)も、彼の肩からのぼる湯気のように自然なフィット感を与え、時にトム・ペティ・ライクな低音歌唱も(これが好き)説得力ある響きを放つ。名手チャック・リ-ヴェルも、彼の念が乗り移ったかのように、シンプルな情感溢れるキーボード・プレイを展開(いつもそう?)。そして、ピークはラストの“Nature Is Law”。なんと!ブライアン・ウィルソンが現れ、そこにタルヴィン・シンのタブラが合わさるといった、とんでもない一曲が待っている。地鳴りのようなブライアンのコーラスに乗っかるリチャードの裸の絶唱。彼はブライアンを砂漠の地へと連れ出した。なんたる自信!
bounce (C)桑原 シロー
タワーレコード(2002年11月号掲載 (P84))