『轟音と静寂のあわいで揺れる、親密で儚いシューゲイズの現在形。エモの余韻を滲ませ、現行インディーと共振する美しき内省のアルバム』
京都発のソロプロジェクト appiによる2ndアルバムは『Red Comb』、シューゲイズ/ドリームポップを基調にしながら、エモ由来の内省性をほのかに滲ませた、現行インディーの文脈と地続きにある一作です。ここでは"親密さ"や"共振"といった方向へ舵を切っている点が印象的で、リバーブに包まれたギターと淡いシンセが幾層にも重なり、空間的な奥行きを形成。いわゆるシューゲイズ的な音の壁も、粒子の細やかな霧のような質感で描かれ、各要素が埋もれることなく有機的に浮かび上がる、その中で、感情の臨界点に触れる場面ではギターが控えめにバーストし、抑制されたダイナミクスの中に確かな起伏を生み出しています。このバランス感覚こそが、単なるジャンルの枠に回収されない強度を作品にもたらしています。
hisanaのヴォーカルもまた、本作の空間設計において重要な役割を担っています。囁くような声は輪郭を強く主張せず、トラックへと溶け込むことで音響の一部として機能しています。その結果、メロディーは明確なフックとして前景化するのではなく、余韻や気配として反復され、聴取の中で緩やかに定着していく。こうしたアプローチは、My Bloody ValentineやSlowdiveの系譜を確かに受け継ぎながら、beabadoobee、Wisp、she's green、Snail Mailといった現行フィメール・インディーの潮流とも共鳴しています。
楽曲ごとの振れ幅も適切に設計されており、ミニマルな構成で余白を際立たせるトラックと、レイヤーを重ねながら緩やかに高揚していく楽曲とがバランスよく配置されています。全体として大きな起伏を誇示するわけではないが、その分、作品全体の流れや空気感の統一が際立ち、すでに一定の視座を獲得した感性が鋭く開花しています。
総じて本作は、強度を前面に押し出すのではなく、音の密度や距離感の精緻なコントロールによって感情を立ち上げる作品で、シューゲイズ/ドリームポップとエモの狭間を往還しながら、いずれにも過度に依存しないバランス感覚は、ルーツへの理解と現行シーンとの接続によって成立しています。静かながら持続的な引力を備え、反復によって深度を増していく--日本発でありながら、国外への広がりも十分に期待させる一作です。
発売・販売元 提供資料(2026/03/25)