War Tour '83

ポストパンク以降の緊張感とスケール感で80年代のロック・シーンを牽引してきたご存じBONO率いるアイルランドの伝説ロック・バンドU2。1983年作『WAR』で政治的メッセージを前面に押し出し、ダブリンから世界的なアリーナ・バンドへと駆け上がっていった時期の勢いを封じ込めたのが本盤です。ヨーロッパから北米までまたいだWAR TOURは、社会情勢を意識した歌とライヴ・バンドとしての爆発力を世界に刻んだ重要なツアーでした。

1983年5月、カリフォルニアの会場で収録されたラジオ放送用ライヴ音源。3RDアルバム『WAR』期のツアー中盤にあたり、アイルランド出身の若いバンドが、冷戦下の世界情勢やポーランドの連帯運動など当時のニュースを反映させながら、アメリカ西海岸のオーディエンスに向けて演奏していた空気感が残されています。まだスタジアム・ロック化する前、タイトな4人編成ならではの切り立ったアンサンブルが聴ける記録です。

鋭いギター・リフと伸びやかなヴォーカルで幕を開ける"GLORIA"、初期のポストパンク色が濃い"I THREW A BRICK THROUGH THE WINDOW"や"A DAY WITHOUT ME"、ダークな"AN CAT DUBH / INTO THE HEART"から名曲"NEW YEAR'S DAY"へと続く流れなど、『WAR』期の楽曲が生々しいテンションで連なります。後半には"TWO HEARTS BEAT AS ONE"や"SUNDAY BLOODY SUNDAY"、"THE ELECTRIC CO"、"I WILL FOLLOW"といった当時のキラー・チューンが並び、THE EDGEのギターとLARRY MULLEN JR.のドラミング、ADAM CLAYTONのベースが一体となって突き上げるU2ならではのライヴ感が堪能できます。

80年代前半のポリティカルな熱量と、のちの大規模ツアーへ向かう直前の鋭さを一度に味わえる、U2初期ライヴ・アーカイヴの中でも即戦力の一枚。スタジオ作『WAR』が好きなリスナーはもちろん、『UNDER A BLOOD RED SKY』などライヴ音源でバンドを追ってきたファンにもおすすめのドキュメントです。