ここ何年か、ヒップホップ・マナー云々を抜きにして、ロック・ファン、なかでも文化系(という括りは多分に差別的ニュアンスを嗅ぎとられがちですが、キッズのりではないという程度のお話であって他意はないのでご了承ください)のハートをガッチリつかんだ国産ヒップホップ・アクトといえば、THA BLUE HERBとこのSHING02にとどめを刺すわけです。前者はその硬質な音楽表現でもって曽我部恵一やナンバーガールの向井秀徳といったミュージシャンをも夢中にさせたように(とくに向井はバンドの音楽的言語表現を拡大させるほど好影響を受けた模様)、54-71をはじめとする硬質なファンク・ビートの持ち主らと同じ文脈で聴くロック・ファンが多いように思います。さて一方、本稿の主役SHING02はというと、もう少し広いニュアンス、つまりロック云々からも自由なニュアンスで捉えられているように感じるのです。僕なんかは、最近のサーファーズ・オブ・ロマンチカの、エクストリームな音の洪水の中からふと匂い立つ情緒(みたいなもの)と全く同じムードを前作『緑黄色人種』から感じとったりしたもんだから、オレ間違ってる?ってなもんで。この新作においても、センチメントから遠い地平の表現のはずなのに、なぜだかビシバシと情緒(みたいなもの)が胸に迫ってくるわけで。寅さん映画イッキ観、にも似た。彼の声そのものの音色やら丹念な構成やら温度ある音像やら、いずれにせよどんな音楽ファンも得るところ大な盤なんで、広く聴かれることを切に願います。
bounce (C)フミ・ヤマウチ
タワーレコード(2002年03月号掲載 (P86))
これまで取材を受けることがあっても、インタヴューそのものが決してメディアに登場することのなかった(いまは違うが)SHING02は、まさに〈誰も知らない知られちゃいけない〉存在であり続けた。そして、それがある種の幻影を生んで、狂信的とも思えるほどに熱狂的な中毒者たちを数多く生んできた。そうしたリスナーにとっての、教祖のニュー・アルバム、それ以上の情報はもはや必要ないかもしれない。アグレッシヴなメッセージと、まるで血が通ってないロボットがプログラミングされた〈説教〉を飄々と語る様との奇妙なアンバランス、優れたストーリーテリングによる夢幻の世界への誘導……それらは今回のアルバムにも十分盛り込まれているのだから。だけれども、もうそろそろ彼の音楽を冷静に聴いてみてもいい頃だろう。そうすることで、また違った彼の一面が見えてくると思うから。DJ NOZAWAによるスクラッチ、寸劇、そして電話での会話のサンプリングなど、意外にもそれほどシリアスなものばかりではないように思える彼の世界の(例えばスチャダラパーなんかにも通じる)なんちゃってぶりには、どこかしらユーモアさえ漂っている。彼特有のこうしたコラージュ感覚や、和太鼓をフィーチャーするなど、東洋を意識したかのようなトラックのいくつかは、ある意味、彼が日本人であって日本人でないというところからくる〈ズレ〉の結果なのかもしれない。
bounce (C)加藤由紀
タワーレコード(2002年03月号掲載 (P86))